[通信アジア] 台東(タイドン)の現在:南條史生

2014年12月14日 10:00 カテゴリ:コラム

 

台東の現在

 

台東の街に始めて訪問した。そこで初めて開催されるTEDx(テデックス)に招待されたからだ。台東は前から行ってみたかった街である。というのは台北、台中、台南、高雄と大都市が並ぶ中で、台東だけが昔の姿をとどめ、自然も豊かだと聞いていたからだ。一方近年、多くのクリエイターやアーティストが台東を訪れたり、移住したりするようになってきた。また大都市の富裕層が別荘を持つようにもなってきた。そこで、どんな様子だろう、と思っていたのだ。こうした動きには、台東につながった数人の人たちの地道な活動があったようだ。

 

TEDxでプレゼンする筆者

TEDxでプレゼンする筆者

 

行ってみると確かに街の中心部は、高いビルがほとんどない。海岸線に沿って、昔ながらの宿やレストランが北方向に続いている。TEDxの会場も、台東県が運営する比較的新しい文化センターだった。ガイドに案内されていくつかのものを見た。一つは旧タバコ工場だった場所で、原住民のアーティストが流木を使って創った家具やアートが展示されている。工房とギャラリーを兼ねているような大きな建物。流木は、台風が襲来する度に海岸に打ち寄せられる、台東ならではの素材で、これを用いた物づくりが盛んなようだ。有名作家の作品は、結構高価である。

 

もう一つは、山の中の原住民の居住地をベースにした原住民の生活と自然を楽しむハイキング。こんなところで結構な山に上ることになった。多くの参加者でにぎわっていて、これはこれで一種のエコ・ツーリズムの良い事例になりそうである。こうした案内の中で、この建物は海岸にホテルとして建てられたが、環境を損なうとの批判で、営業できないままになっています、というものもあった。

 

また台東ではちょうどデザイン博覧会をやっていた。これは見本市会場で開催されていて日本からはデザイン・グッズが送られて展示されているだけでなく、石垣島市からはチームで参加して、石垣島の生産物や観光のプロモーションを行っていたのは印象的だった。

 

デザイン博でプレゼンする石垣島のブース

 

合間を縫って、この海岸線の中腹にスタジを構えたピエール・チャンという年配のアーティストのスタジオを訪問した。彼はニューヨーク、パリで長年生活してきたアーティストで、このスタジオは広さ、建築デザイン、プール付きの家、全面に見える海など、すべてが理想郷のようである。作品は、基本的に明るい抽象絵画である。もともとは暗い絵を描いていたそうだが、台湾に戻って色彩が豊かになったと語っていた。

 

夜、食事招待されたら、やっていないはずのホテルで、食事になった。外からは営業しているのがわからないが、実際にはメンバークラブのように知り合いだけが滞在・食事する場所として使われているという。このホテルのレベルは、デザインも食事もトップクラスだった。

 

概して、台湾の人は環境意識・歴史意識が高い。日本よりも自然との共生、昔のライフスタイルの維持を唱える人が多い。それが街を昔通りに保ち、自然を保護し、また日本時代の遺産も大事にするという姿勢につながっている。

 

そうしたことも踏まえて、私のTEDxでの話は、自然を維持しつつ、そこにアートによる感動ももたらす、新しい街づくりの可能性について問いかけることにした。今後の台東の発展の方向性を見ていきたいと思う。

(森美術館館長)

 

TEDxのJason Hsuも原住民の村を訪ね、山登り

 

 


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