[通信アジア] 台湾視察Ⅱ 4つの美術館の話題:南條史生

2014年06月11日 10:00 カテゴリ:コラム

 

台湾視察Ⅱ 4つの美術館の話題

南條史生(森美術館館長)

 

台中を経緯して台南まで行ってみた。まず台中。国立の大型美術館には何度も訪ねたが、あらたに亞洲現代美術館が開館していた。これは台中にあるアジア大学のキャンパスにオーナーが開設した美術館で、建築は安藤忠雄。三角形をしていて、展示空間としてはなかなか独特の癖がある。しかしコンクリートは極めて美しく、建築技術のレベルは高い。ここは私立大学のオーナーのコレクションであるロダンや19~20世紀の彫刻が中心。開館記念展として、台湾の現代美術も展示してあった。

 

台南に行くと、今度はチメイ博物館に案内された。これはチメイという企業のオーナーが建設中の、まだ開館していない美術博物館だが、これには驚愕した。基本的に入り口の噴水、橋、建物は、ヴェルサイユのコピーなのだ。しかも安物のコピーではない、全部カララの大理石をふんだんに使っている。その規模は壮大、いい加減に作られた物ではない。しかしコレクションはオルゴール、動物の剥製、楽器、ロダン、18~19世紀のヨーロッパ絵画などで、なぜこれがここにあるのか、という疑問がふつふつとわき上がる。しかし、よく考えてみよう、これがグローバリズムの現状だと言われたら、なんと応えるべきだろうか。世界中の好きな物を個人が色々と集めて、現代のキャビネ・ド・キュリオジテを作ったからと言って、とやかく言うことが出来るだろうか。だいたい日本だっていまだに印象波の展覧会に沢山の人が押しかけている。今回の最も鮮烈な体験だった。

 

チメイ博物館の威容

 

台南では次に4カ所に分散する会場で、陳澄波の展覧会を見た。日本で最初に帝国美術展覧会に入選した台湾人画家である。悲運を生きたこの画家の詳細はここで語りきれないが、日本との深い関係、日本が知るべき重い歴史を象徴する画家である。そしてこうした展覧会を開催するべく、新しい美術館が計画中である。

 

陳澄波の展覧会風景

 

最後に學學文創という、デザインの教育財団が自社ビルの4階に作っているギャラリーを紹介したい。ここは昨年、深澤直人が展示を行った場所で、その際にすばらしいギャラリー空間を作り上げている。壁も床もライトグレーで、ギャラリー空間としては、おそらく台湾で最高、最善、最良の空間である。

 

今回はその空間をそのまま使い、杉本博司が抑制のきいたすばらしい展示を行っていた。写真シリーズの代表作が次々に紹介されている。ミニマルと言えばミニマル。繊細さと洗練とは、このようでなくてはならない。この趣味の良さは台湾のみならず、日本でも、決してどこにでもあるものではない。台北に行く人には、絶対推薦したい展示である。

 

學學文創での杉本博司展 展示風景 (会期:2013年12月7日~14年9月28日)

 

ところでこの機会に、森美術館で開催するリー・ミンウェイ展の支援を文化大臣に直接お願いした。今回の台湾訪問では、文化大臣、台南市長、あるいはTED×Taipeiを推進する若いリーダーなど20人近い文化関係者。クリエイティブ関係者を訪問した。5日の旅とは思えない濃密な旅であった。ソフト産業に力を入れる台湾、これからも動向に注目していきたい。

 

【関連リンク】 森美術館 リー・ミンウェイとその関係展

 

「新美術新聞」2014年4月21日号(1342号)3面より

 


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