工芸

   

「描絵(かきえ)とは、被服に着色料を用いて意匠を直接、筆類で描く技法」を指す名称の正統語。同語の初見は、室町期の文献『看聞日記(かんもんにっき)』に所載してある。描絵の俗称は、素描(すがき)・無線友禅(むせんゆうぜん)・描染(かきぞめ)など。二つの花を取り合わせる主な手法には、同種で色違いによって無難にまとめ上げる仕方と、異種を併せて作風の妙味を表すのがある。薔薇は一般に洋花の代表と見なされ、菊は中国から渡来したとはいえ、日本の秋を代表する花としての扱いを受けている。その組み合わせによって視覚的な面白みを醸し出せればと試みた。
描絵(かきえ)は従来、当然とはいえ和装に表している。しかし、和装だけでなく洋装にも描絵の表現が可能であるという具体例を提示してみた。ドレスに描絵の施しは、工芸(美術)とファッションが融合したパーソナライズされた作品の作り出しができるであろう。この手法を用いたドレスは単なるファッションアイテムではなく、筆のストローク、色彩の選択、描く主題によりドレスに深み、テクスチャ、そして個性を与える。全体として、これは意匠における創造的なアプローチであり、着る人の独自性をも表現するドレスの創造が可能といえる。
牡丹は原産地の中国で大輪に咲く花姿から富貴花(ふうきか)とよび、百花の王を誇る。奈良時代に伝来したといわれ、元禄頃には名実ともに、“日本の花”となって衣服や工芸品へ盛んに彩る。華麗で品位の備わるふくよかな花は、今では時季を問わず「きもの」を華やかに引き立てている。
今日、振袖とよんでいるのは、大(本)振袖や小振袖を退けて、袖丈が二尺四寸から二尺八寸の中振袖をいう。中振袖は、全面に絵羽を行き渡らせたものが多く、色合いと柄ゆき共に派手やかな明るさ、華やかで晴れやかな雰囲気に包まれた感覚を特色づけている。<br />
およそ日本人は袖に優美さの心情を委ね、袖が有する豊かな叙情の美を感じとる熟成した感性を携えてきた。といえども、元を辿れば古く中国に行き着く。袖は実用着であれば必要がないものの、洒落着や礼装として袖の努める優雅な装飾美の役割は大きい。

   

 

尾崎重春

OZAKI SHIGEHARU

1941年岐阜県生まれ。現、東京・港区住。
武蔵野美術大学を卒業、渡仏。帰国後、京都で10年間、油絵制作とともに描絵(かきえ)に携わる。京都アンデパンダン展に出品(86年第26回まで出品を重ねる)。油絵と描絵の個展をパリ(3回)、ハンブルク(3回)、ニューヨーク(3回)で催す。上野の森美術館大賞展・日仏現代美術展で受賞。
著書に『描絵の傳書』(98年)、『描絵の系譜』(2007年)、『描絵の手控帖』(08年)、『京都アンデパンダン展:全・2回+31回を概観』(11年)、『筆聖 宮内得應 筆巡りの旅』(13年)がある。

HP 尾崎重春の断面

【洋画】

パリ眺望、岩礁、夜のカフェ・バー、 パリ、坂道

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