【特集】 2013 年末回顧 美術界の一年を振り返る

2013年12月10日 17:50 カテゴリ:最新のニュース

 

富士山の世界文化遺産登録や東京五輪開催決定など、喜ばしいニュースが目立った2013年。美術界では、青柳正規氏の文化庁長官就任や東京美術倶楽部・東京美術商協同組合の新人事など多くの変化が見られました。美術界で活躍する方々はどのようにこの1年を振り返るでしょうか。『美術界で活躍される3氏による寄稿』と『美術界の主な出来事』、そして『美術関係者38名によるアンケート』で構成する「新美術新聞」恒例の年末回顧特集をお届けいたします。

 


 

時代の趨勢は創造行為とアーカイビングの一体化

 

建畠晢 (京都市立芸術大学学長)

 

撮影:川島保彦

今年もビエンナーレやトリエンナーレ形式の国際現代美術展が注目を浴び続けた年であった。ヴェネチア・ビエンナーレでは日本館(出品作家・田中功起、コミッショナー・蔵屋美香)が特別表彰を受賞した。東日本大震災をテーマにした9つのプロジェクトのドキュメントで、それぞれのプロセスの記録を映像などで提示したアーカイブ的なインスタレーションである。ヴェネチアの会場では広い意味での資料館的な展示が目立ち、時代の趨勢が創造行為とアーカイビングの活動の一体化に向かっていることを印象付けられた。

 

日本の大規模な国際展としてはあいちトリエンナーレ、瀬戸内国際芸術祭が開催され、共に大量観客動員に成功したが、あいちが典型的な都市型であるのに対して瀬戸内が島々に会場を分散させる僻地振興型であるという、きわだった性格の違いをみせていたのは興味深い。前者の岡崎会場の向井山朋子+ジャン・カルマンの照明と音響によるインスタレーションや志賀理江子の東北震災の前後の時期に撮影された荘厳な写真のシリーズは、私たちの記憶にとりわけ深く刻まれる展示であったといえよう。

 

美術館の個展として特筆されるのは工藤哲巳展(国立国際美術館)である。同館のキュレイター、島敦彦の長年にわたる周到な準備の成果で、作品の選定、展示、カタログのすべてにわたって回顧展のスタンダードをなすというべき、きわめて充実した内容であった。またフランシス・ベーコン展(東京国立近代美術館、豊田市美術館)も“ベーコンにおける身体”という明確な批評的基準に基づいて企画された優れた回顧展であった(キュレイターは保坂健二朗)。

 

今年はおさまるところを知らない国際的な草間彌生ブームが一層の盛り上がりをみせた年でもあった。昨年、テートモダン(ロンドン)やポンピドゥーセンター(パリ)で開催された個展が、今年はホイットニー美術館(ニューヨーク)に巡回し、また中南米巡回展、アジア巡回展、日本国内巡回展が、同時に進行中である。現在、ニューヨークで開催中の新作個展(デヴィッド・ツヴィルナー画廊)は3時間待ちの行列ができているとも聞く。84歳にして創造力を激発させ続けるこの天才の第二の黄金期には敬服するしかあるまい。

 


 

美術品市場に好転の兆しも

 

三谷忠彦 (東京美術倶楽部代表取締役社長、三溪洞代表取締役)

 

撮影:川島保彦

撮影:川島保彦

今年は年初来のアベノミクス政策によって、円安、株高の動きが顕著となり、バブル崩壊以降20年に及ぶ長い不況のトンネルにも明るい兆しが見えた年となりました。東京オリンピックの開催が決まったことも、近年にない明るい話題でした。

 

ところで我々美術業界にとって、この1年はどの様な年であったでしょうか。輸出産業を中心に大手企業の業績が好調となり、各種経済指標が好転したことで、美術業界にも気持ちの上での明るさは出てきたように思います。美術品市場でも、作品の品質の良いものは予想外の高い値段で取引される例が目に付くようになってきています。しかし、一般的な作品の動きはもうひとつ、といったところでしょうか。今後は、お客様の興味が美術品全般へと広がっていくことを期待したいものです。

 

10月、東京美術倶楽部では3年に1度の「東美特別展」が開催されました。昭和39年に東京オリンピックを記念して、我が国最高レベルの美術品の展示即売会として始まったこの展示会は今年で19回目となりました。今年は入場者数も延べ5千人を超え、多くの人が美術に関心を持っていられることに心強く思った次第です。東京美術倶楽部では今後も引き続き、3年に1度の名品展としての東美特別展と、その間の2年間に開催される、もっと気楽に楽しめ、また多くの人が手に入れやすい美術品を中心とした展示即売会、東美アートフェアを開催していく予定です。また、各種セミナー等も開催していますので、ぜひ多くの方にご参加頂きたいと思います。来年は、美術業界にとっても脱デフレが実感できる年になることを願う次第です。

 


 

美術界の新たなる上昇気流

山本貞 (洋画家、二紀会理事長、日本美術家連盟理事長)

 

今年の明るい話題はなんといっても富士山とオリンピック。富士山が文化遺産になった時も日本国中、喜びで沸きました。これは外交官出身の近藤誠一・前文化庁長官の在任中の成果で、私たちは本当に幸運であったと思っております。

 

ついで、就任された青柳正規・文化庁長官は民間の活力を、美術館運営などに接続してゆく剛腕ぶりは知られているところで、今度は広い分野でのご活躍を、そしてもとより美術界の革新のためにお力を頂けるものと期待が大きい。そのあと引き継がれた、女性では始めての馬渕明子・国立西洋美術館長、(独)国立美術館理事長。この重責をどう担っていかれるのか、女性の活力時代の象徴的存在として大きな希望が託されております。

 

一方、私たちの日本美術家連盟が発行しております「連盟ニュース」(2014年新年号)の取材で、つい先日、国立新美術館・青木保館長にお話しを伺いました。文化人類学者でもある館長の、国際的な視界からの様々な提言は新鮮でありました。特に美術団体のビジョンへのご助言の数々は、実に鮮やかなものでした。

 

東京都美術館もリニューアルが終わり、真室佳武館長以下ベストセレクション展など新しい企画を打ち出して、とても好評です。

 

さて、日本美術家連盟は1949年に創立しており、明けて65年目、現在は5278名の会員を擁し、公益性も踏まえて諸事業を行っております。その1つである、著作権の代行業務を今般、国内に関する著作権はいままでどおり「連盟」が責任を持って代行し、一方海外の業務は先般設立された「ジャスパー」が取り扱うという、その区分を明確にし、今後はそれぞれが全く別組織として歩むこととなりました。以上をこの機会にお伝えさせていただきます。

 

今年は有力な長官、美術館長の方々が勢ぞろい、美術家たちも元気が盛り上がって、新年の美術界の新たなる上昇気流が期待されましょう。


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【関連リンク】 入場者数レポート 2013年後半の主な展覧会の話題から

 


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