【六本木】 大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年

2012年06月18日 12:37 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

ヨーロッパ絵画の精髄を堪能

本橋弥生(国立新美術館主任研究員)

 

ジョシュア・レノルズ「ウェヌスの帯を解くクピド」1788年

ロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館は、ロマノフ王朝の壮麗な宮殿と約300万点もの所蔵作品が見事に調和した、世界有数の美術館である。今から約250年前に女帝エカテリーナ2世が蒐集をはじめ、その後、ロシアの威信をかけて集められたエルミタージュ美術館のコレクションは、ロシアという大国によって編纂された「美の百科事典」ともいえる、人類の遺産でもある。

 

今回の展覧会ではその卓越したコレクションの中から、16世紀から20世紀初頭までの西欧絵画を、各世紀を象徴するキーワード、すなわち16世紀は「人間の世紀」、17世紀は「黄金の世紀」、18世紀は「革命の世紀」、19世紀は「進化の世紀」、20世紀は「アヴァンギャルドの世紀」を切り口に、それぞれの時代を代表する作品を選び展示している。

 

ライト・オブ・ダービー(本名ジョゼフ・ライト) 「外から見た鍛冶屋の光景」1773年

出品されている絵画89 点の多くは、通常、常設展としてエルミタージュ美術館の壁を飾るものである。つまり、それらはコレクションの「顔」とも言える存在で、エルミタージュ美術館を特徴づけるものであると言える。ティツィアーノに代表される盛期ルネサンスのヴェネツィア派絵画から、17世紀フランドル美術を代表するルーベンスやヴァン・ダイク、そしてオランダ絵画の巨匠レンブラント、18世紀フランス・ロココ美術のブーシェやイギリス絵画の発展に貢献したレノルズ、そして19世紀ロマン派のドラクロワ、印象派のモネ、近代絵画の父セザンヌ、さらには20世紀のマティス、ピカソらによる作品まで、本展によって400年にわたる西欧絵画の歴史を一挙に辿ることができる内容である。なかでも、アンリ・マティスの代表作《赤い部屋(赤のハーモニー)》(1908年)は、東京で30年ぶりの公開となる。

 

また興味深い作品として、エルミタージュ美術館の礎を築いたエカテリーナ2世が自ら画家から購入した作品3点が挙げられる。女帝が尊敬し、文通したフランス人哲学者ヴォルテールを描いた《ヴォルテールの朝》と《植樹するヴォルテール》(共に1754―1775年)は、スイスの小さな村に移住したヴォルテールの日常生活を、女帝が同地の画家ジャン・ユベールに描かせた貴重な作品である。また、イギリス人画家ライト・オブ・ダービーからは産業革命の成果である当時の技術をテーマにした《外から見た鍛冶屋の光景》(1773年)などを購入した。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「虹のある風景」1632頃-1635年

エルミタージュ美術館が所蔵する西欧絵画の傑作を通して、400年のヨーロッパ絵画の精髄を堪能しつつ、ロシアの歴史に思いを馳せることができるのも本展の魅力のひとつである。

 

【会期】2012年4月25日(水)~7月16日(月・祝)

【会場】国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)

☎03-5777-8600 【休館】 火曜

【開館時間】 10:00~18:00(金曜のみ20:00まで、入館は閉館30分前まで)

【料金】 一般1500円 大学生1200円 高校生800円

【巡回】 7月28日(土)~9月30日(日)名古屋市美術館、10月10日(水)~12月6日(木)京都市美術館

【関連リンク】 www.ntv.co.jp/hermitage2012

「新美術新聞」2012年6月1日号(第1281号)1面より


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