【富山】 白寿記念 郷倉和子展 ―心の調べ―

2013年10月02日 17:21 カテゴリ:日本美術院

 

「靜日」 1989年 富山県立近代美術館蔵

 

馥郁と馨る郷倉和子の藝術

川口直宜

 

 

酷暑から一転して爽秋を迎えたが、待望の美術展「白寿記念 郷倉和子展 ―心の調べ―」が開催される。

 

和子さんは、9月1日開始の再興第98回院展に「空へ」を発表、健筆ぶりを示してくれたが、健筆ぶりより以上にその爽やかな深い画境に驚嘆した。空一面に広がる鰯雲、その白さと青空の対比、僅かに花びらを見せる梅花、白寿展を寿ぐのにふさわしい内容で、本回顧展の成功を予兆させるものがある。

 

大正3年に生まれた和子さんは、父に日本画家・郷倉千靭を持ち、日本美術院の先輩の小倉遊亀、片岡球子、北澤映月、荘司福らの系譜を引く画家としての存在感は、たいへん大きい。

 

「真昼」 1957年 富山県立近代美術館蔵

昭和10年に女子美術専門学校(現・女子美術大学)を卒業し、早くも翌年の再興第23回院展に「八仙花」を初出品、初入選となった。12年には、安田靫彦の火耀会に入塾、画家としての心構えを教えられたが、これが生涯の指針となったのは幸いである。すなわち技術論ではなく、精神論を諭されたことは、いかばかり和子さんの血肉となったかは想像以上のものがあろう。

 

郷倉さんのモティーフは花鳥画にある。師の靫彦が歴史画の大家であるのと比較してその点に大きな相違があるが、師とは異なる絵画世界を選択したことが今日の成功を齎したといっても良いだろう。

 

再興院展への初入選以降、順調に入選を重ねるが、いずれの作品も花鳥画と見て良いけれども、当初の写実的表現から半具象的表現への移行を試みているのは、注目される。これには、千靭塾の門下生、馬場不二の影響があった。その成果が32年の「真昼」で日本美術院賞・大観賞受賞に結びつき、35年の「花苑」で再度の日本美術院賞・大観賞受賞に輝き、日本美術院同人に推挙されることとなった。

 

新しい花鳥画を求めるという積極的な姿勢が生んだのが45年の「榕樹」(文部大臣賞)である。南国の水辺の樹木、榕樹(ガジュマル)を題材に鮮烈な色彩美に満ちた世界を創造。それはシュルレアリスム的ともいえる花鳥画であるが、ここに郷倉さんだけの花鳥画の成立を見たといえる。

 

「閑庭」 1984年 世田谷美術館蔵

 

しかし、和子さんは一所に留まらない。59年には「閑庭」(内閣総理大臣賞)を発表する。京都・鷹ヶ峰の光悦寺茶室の塀、垣根と萩を描き、人工と自然の調和を目指したのである。さらにそれと時を同じくするように〈梅〉が重要な画材となるが、その世界は、〈梅〉単独の表現と、建物との併存表現とに分けられる。単独では60年の「暮色白梅」、併存では平成元年の「靜日」(恩賜賞・日本藝術院賞)であろうか。前者は自然観照の深さ、後者は構成の見事さを挙げておきたい。この〈梅〉連作の到達点は、深く、高く、広い。率直に喜びたい。

(美術評論家)

 

白寿記念 郷倉和子展 ―心の調べ―

【会期】 2013年9月21日(土)~11月24日(日)

【会場】 富山県立近代美術館(富山市西中野町1-16-12)☎076-421-7111

【開館時間】 9:30~17:00 (入館は16:30まで)

【休館】 月曜、祝日の翌日(ただし9月23日、10月14日、11月4日、11月24日は開館)

【料金】 一般900円 大学生650円

【関連リンク】 富山県立近代美術館

 

「新美術新聞」2013年10月1日号(第1324号)1面より

 


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