書 杭迫柏樹の世界展 2

2016年09月05日 16:07 カテゴリ:その他ページ

ƒ杭迫柏樹 私の学書 十ヶ条
—傘寿を越えて思うこと
 
杭迫 この間良寛の歌を読んでいたら「いにしへはこころのままに従へど 今はこころよ我に従へ」に出合って、これからはこれを考えていこうと思っています。良寛73歳の歌ですが、孔子の『論語』の中に似たものがあり「七十にして心の欲するところに従えども矩 (のり) を踰 (こ) えず」。僕は良寛の歌は『論語』を読んだ感想かなと思いました。そして「いにしへはこころのままに従へど」の「こころ」とは何かといったら、『論語』でいう世間の常識とか自然というものだと僕は思うのですけど、それが今は「こころがわれに従へ」と。どういう意味かわかりませんが、良寛さんは多分『論語』を読んで歌ったに違いない。僕はこの後半をこれから考えていきたいと思っています。今一番関心を持っているのは、この歌ですね。
 
 
—印象的な言葉の覚書について
 
杭迫 思いついたことを書き留めています。平成26年から始めて2冊目になりますが、「書は日本文化の軸足でなきゃいかん」これが大基本です。そしてこれは僕の言葉集です。「切ったら血が出るような字」。書はやはり線の芸術だと思うのですね。「打ったら快音を発するような線」を書きたいというのが僕の本音です。一生賭けてこれをしたいと思っているのです。快音を発したり、鮮血が出るような字がいいと思っています。
日本画の村上華岳先生が桑田笹舟先生に言われた言葉だそうですが「豊・麗・胆・笑」=「作品というのはまず豊かでないといけない、麗しくないといけない、腹がすわってないといけない」と。そして「作品の中にユーモアを感じたら一流です」と。最後のここができない。これができて始めて作品は一流になる。前の3つは努力したらできます。最後は天性のものでしょうね。でも欲しいなと思っているのです。僕の最終目標です。
思いついたら端から書いて、いろんな事に興味を持つ。こうならないといかんと思って、自分で思いついたことをまだ書き足しているのです。
 
ƒ「靈機」「豪爽」
 
手書きで残そう「私のひとこと」運動について
 
杭迫 東日本大震災の復興支援については最終段階で、これまで2回この運動を行ない、お蔭様で約3千万円の義捐金が集まりました。そしていろんな援助をしているのですが、最後は皆の力で石碑を建てようということで、「絆」という字を東大寺の元管長さんに書いてもらいました。今年中に建立する予定です。
 
 
—挑戦したいこと
 
杭迫 それはもう、生活空間に書が復活することです。これが唯一、一番大事な課題です。それと紙に書いたものは命が短いので、命の長い「石に刻む」「陶に書く」等もこれからしたいなと思っています。今まで何がしかあるのですが、もっと積極的に。
さらに書という文化に応援団ができるということ。
大上段に振り被り過ぎてますが、僕は「文字の美しさは一国の文化のバロメーター」だと思っています。今日の混乱した書は、それは出鱈目な時代ですよ。時代がよくなればこんな字は許されないと思うのです。中国でも、初唐中唐晩唐、北宋南宋と見ていくと、その時代を表わす通りの書です。そう思うと、国の状態が文字の美しさを表していますが、文字の美しさが国を建て直すことにもなると思います。我々書家のできる仕事としてそう思っているのです。
 
 
生活の書
 
—最後に、今展にかける思い
 
杭迫 自分は今後、こんな大規模な展覧会はもう二度とできないと思っています。自分の総決算をしたいと思っているんです。読売書法展のテーマである“本格の輝き”に沿って京都文化博物館の6階を大作ばかりにします。そして5階では自分がこれからしたいと思うことをやるのです。そのやり方の一つとして、自分が言葉を選ばない、他人が選んだ言葉を、同時代に生きる別の人間=私がどう表現するかに挑戦したいのです。これが生活空間に書が復活する大事なことで、自分が選んだら、書家ですからやはり書家が選んだ書になります。だから皆さんに言葉を選んでもらって、それを書く。大学の先生とか会社の経営者とか、日本を背負っている有識者たちが選んだ言葉を、僕が書家としてどう表現したか。これを皆さんに問いかけるのが5階のテーマです。
 
(5月24日、自宅「應心庵」にて)
 

「新美術新聞」2016年8月21日号より転載

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●書 杭迫柏樹の世界展

【会期】9月7日(水)〜9月11日(日)

【会場】京都文化博物館(京都市中京区三条高倉上ル)

【TEL】075-222-0888

【休館】無休

【開館】午前10時~午後5時(最終日は午後4時閉場)

【料金】入場無料

【関連リンク】京都文化博物館
手書きで残そう「私のひとこと」-東日本大震災復興支援-

 
 

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