【特集】2014 年末回顧―松葉一清

2014年12月24日 17:00 カテゴリ:その他ページ

 

 

上海郊外に安藤忠雄設計のオペラハウス「保利大劇院」が完成した。巨大な直方体に複数の円柱を貫通させる空間構成は、円柱の交差部分でこれまで見たことがない次元の幾何立体の展開をもたらし、中国ならではのスケール感を実現している。安藤は、現代建築がエフェメラル(かげろう)と呼ばれる危うさに走るなか、希有な実在感のある表現に打って出た。世界的にも注目を集める大作の登場である。

 

この作品の出現と、昨年来の「新国立競技場」批判とは、建築界の現状の裏表をなす。国際コンペで当選したザッハ・ハディッド案は、東京五輪誘致の有力な素材となった。その案の大胆な建築表現を、建築界への社会の注目を高める好機と受け止めず、お門違いの批判の輪に加わる建築家が少なくない。

 

批判の論拠のひとつは、2年前のロンドン五輪のスタジアムとの比較だった。だが、売り物とされた「縮小改装可能」は、米国の設計組織のセールストークの域を出ず、スタジアムは規模縮小などされず、英プレミアリーグのサッカーチームの新本拠地となった。環境・資源保護は、国際派を自負する識者をころりといかせる媚薬であり、それがロンドンでどう実行されたか見定める必要があろう。

 

安藤は五輪招致のために、新国立競技場を国際コンペとすることに尽力した。その彼が今回、大スケールのオペラ劇場を上海で実現したのは、萎縮した議論ばかり繰り返す、わが国建築界への自作をもっての返答であり、叱咤激励の意思表示とも考えられよう。

 

73歳の安藤が上海で巨大な作品を手がけ、パリのブローニュの森では、85歳の米国の建築家フランク・ゲーリーがルイ・ヴィトン財団のギャラリーを世に送って、脱構築主義者の心意気を示した。評価の確立されたアヴァンギャルドに敬意を抱くとともに、世代交代の芽を来年こそは見いだしたいものだ。

 

 

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