子どもへの想いに呼応する――「子どもへのまなざし」:田中 宏子

2019年11月18日 11:00 カテゴリ:最新のニュース

 

新生加奈《少女と宇宙》2016年 作家蔵 撮影:大谷一郎

新生加奈《少女と宇宙》2016年 作家蔵 撮影:大谷一郎

 

「公募展のふるさと」と称される東京都美術館の歴史の継承と未来への発展を図るために、2017年より開始した「上野アーティストプロジェクト」シリーズ。第3回となる今年は「子どもへのまなざし」をテーマに三章構成で開催する。作家たちは、自身の個人的な経験や周囲の子どもの存在を元にさまざまなイメージを重ねて、子どもをモチーフとした作品を生み出している。

 

第一章は「愛される存在」をテーマに、日本美術院院友の新生加奈と、一陽会委員の大久保綾子を紹介する。新生は、美しく繊細な色彩を用いて、優しさに満ちたタッチで人物を描き出す。描かれる少女や母子像には、慈愛に満ちた空気や、深い暖かさが感じられる。大久保は一貫して母子像を描いており、子どもとともにどっしりとした存在感のある母親を描き、まるで大地にしっかりと根を張る大樹の風景のような作品を発表している。作品を通じて、子どもに注がれるあたたかなまなざしが感じられるだろう。

 

大久保綾子《生命を紡ぐ》2014年 作家蔵

大久保綾子《生命を紡ぐ》2014年 作家蔵

 

第二章は「成長と葛藤」と題し、既存社会への従属と自己の確立の間に自身の存在意義を見出そうとする思春期の葛藤をテーマにした作品を紹介する。独立美術協会準会員の志田翼は、物や情報にあふれた現代において、中学生、高校生が直面する選択の難しさをテーマにした作品を発表する。新制作協会協友の豊澤めぐみの作品に描かれる女子高校生は、一人の人間の中にある複数の感情を表しており、時に混乱し、爆発する複雑な感情が作品の中に表現されている。青年期の軋轢をテーマに描いた作品は、見る者に過去の記憶と向き合うきっかけを与えるだろう。

 

志田翼《たくさん》2018年 作家蔵 撮影:大谷一郎

志田翼《たくさん》2018年 作家蔵 撮影:大谷一郎

 

豊澤めぐみ《The Birthday》2015年 作家蔵 撮影:大谷一郎

豊澤めぐみ《The Birthday》2015年 作家蔵 撮影:大谷一郎

 

第三章では「生命のつながり」として、主体美術協会会員の山本靖久と二紀会委員の木原正徳を紹介する。豊かな自然の恵みとともに、穏やかな表情をたたえた人間が描かれる山本の作品は、人間の生命の根源的な記憶に共鳴し、遥かなる楽園に想いを馳せることができるだろう。木原正徳は、つややかで透明感のある画面に、移り変わる「自然」と象徴的な「人」とが絡まりあう世界を豊かな色彩で描き、境界を隔てることなく混然一体となって生命が循環する様子を表現している。作品の中で描かれる生命の交響は、人間だけでは生きていけない世界において、生命とは、生きるとは、本当の豊かさとは何かを考えさせられる契機となるだろう。

 

山本靖久《柔らかな予感》2015年 作家蔵

山本靖久《柔らかな予感》2015年 作家蔵

 

子どもにまなざしを注ぐ作家たちによる多彩な世界は、作家個人の想いから生み出された作品でありながら、鑑賞者の中にある「子どもへの想い」に呼応する。自身の内なる声に耳を傾けながら、じっくり展覧会をご鑑賞いただきたい。(東京都美術館学芸員)

 

出品作家
大久保綾子(一陽会)
木原正徳(二紀会)
志田翼(独立美術協会)
新生加奈(日本美術院)
豊澤めぐみ(新制作協会)
山本靖久(主体美術協会)

 

木原正徳《人のかたち野のかたち-地に還る-》2017年 作家蔵

木原正徳《人のかたち野のかたち-地に還る-》2017年 作家蔵

 

【展覧会】上野アーティストプロジェクト2019「子どもへのまなざし」

【会期】2019年11月16日(土)~2020年1月5日(日)

【会場】東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)

【TEL】03-3823-6921

【休室】11月18日(月)、12月2日(月)、16日(月)、26日(木)~2020年1月3日(金)

【開室】9:30~17:30(入室は17:00まで)

    ※金曜、11月30日(土)、12月7日(土)は9:30~20:00(入室は19:30まで)

【料金】一般500円 65歳以上300円 学生以下無料

【関連リンク】 東京都美術館

 

【イベント情報】

◇ 出品作家によるアーティストトーク
日時/・2019年11月24日(日) 14:00~15:30
    作家:大久保綾子、豊澤めぐみ、木原正徳
   ・2019年12月1日(日) 14:00~15:30
    作家:新生加奈、志田翼、山本靖久
会場/東京都美術館 ギャラリーA・C
参加方法/無料、要本展当日観覧券、会場集合
※作家は都合により変更の可能性あり

 

◇ 担当学芸員によるギャラリートーク(英語の逐次通訳付き)
日時/2019年12月8日(日) 14:00~15:00
会場/東京都美術館 ギャラリーA・C
参加方法/無料、要本展当日観覧券、会場集合

 

◇ 担当学芸員によるギャラリートーク
日時/2019年12月20日(金) 14:00~14:30、19:00~19:30
会場/東京都美術館 ギャラリーA・C
参加方法/無料、要本展当日観覧券、会場集合

 

◇ 学校向けプログラム Museum Start あいうえの「うえのウェルカムコース」
本展会期中の平日に、学校を対象とした学習指導要領に対応するプログラムを実施。子どもたちが主体的に鑑賞できるよう事前に教員の方と打ち合わせの上、当日は学芸員やアート・コミュニケータとともに展示作品を楽しみ、その後特製のツールを使ってミュージアム・ブック作りを行う。
対象/小・中・高等・特別支援学校(部活動やクラス単位から受け入れ可。特別支援級も含む)
所要時間/1時間30分から2時間程度
参加方法/「Museum Start あいうえの」ウェブサイトの申込フォームより事前申込制

 

◇ 国立国会図書館国際子ども図書館・東京都美術館連携企画
「子どもと楽しむ美術-絵本の読み聞かせとともに-」

国際子ども図書館職員による絵本の読み聞かせや、美術に関係する絵本の紹介を実施。また、国際子ども図書館で開催中の展示会「絵本に見るアートの100年―ダダからニュー・ペインティングまで」(会期:2019年10月1日~2020年1月19日)の見どころも紹介。
日時/2019年12月22日(日) 13:00~14:00
対象/4歳以上の子どもとその保護者等
会場/東京都美術館 アートスタディルーム(交流棟 2階/定員48名)
参加方法/無料、会場集合、当日先着順(12:30開場)

 


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