利休の愛した美―「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」京都で開催中、間もなく東京へ

2017年01月06日 15:35 カテゴリ:最新のニュース

 

樂家450年の伝統と技を一望するかつてない規模の展覧会が現在京都で開催中、3月には東京に巡回する。初代長次郎から十五代吉左衞門まで、常に時代の前衛であった樂焼の全貌を重要文化財含む数々の名碗を通じて紹介する同展では、千利休の「わび」茶の思想を強く反映したその造形世界を堪能できる。

 

 

深遠な精神性と美の世界:諸山正則(東京国立近代美術館主任研究員)

 

16世紀後半、安土桃山時代に樂家初代長次郎によってはじめられた樂焼は、およそ450年、十五代にわたり特有の美意識をもって時代に即した伝統と新たな創造が積み重ねられてきた陶の芸術です。手捏ねと箆削りで成形した茶碗を一つずつ硬い炭の火を鞴で調整しながら焼きあげる特異な焼物です。千利休の侘び茶の創意と思想を反映して、黒樂と赤樂という茶碗のなかに深い美の精神性を確固とした、いうなら成形や装飾に美の表現行為をとらずにただ静謐な存在感を表す伝統の世界です。

 

十四代覚入は、戦後モダニズムのなかで樂茶碗の伝統性をそれと融合する新たな創造を図り、箆削りの構築性に特異さを発揮したその造形に釉や化粧土の意識的な掛け分けを施しました。覚入は、「一子相伝で伝えることは教えないことだ」としたといいます。十五代は、伝統と創造という命題を自らに背負いながら、「今焼き」と称された長次郎の茶碗を無の意識と現代という視点でとらえ直し、また歴代の樂焼の伝統を認識し直すことによって現代の創造を見出してきました。それは、手捏ねと箆削りによる普遍の造形であり、また彫刻的な成形に色調が豊かな釉掛けや地肌の美しさをとらえた焼貫の技法によって革新的に、現代陶の創造を表しています。そして次代を担うであろう篤人は、樂家一子相伝の伝統を受け継ぎ、現代陶という芸術に立ち向かおうとしています。

 

昨年のロシアのエルミタージュ美術館とプーシキン美術館で好評を博した「樂展」の帰国を記念した本展では、内容を新たにさらに充実した構成とし、「黒樂茶碗 大黒」や「赤樂茶碗 無一物」をはじめ長次郎の重要文化財のほとんどを一堂し、歴代の代表的な作品に本阿弥光悦の重要文化財の樂茶碗や俵屋宗達らの絵画を加え、そして当代樂吉左衛門の現代陶の主要作を紹介しています。初代長次郎にはじまる樂の芸術の全貌を現代という視点で振り返っており、「茶碗の中の宇宙」に込められた深遠な精神性と美の世界があります。

 

 

 

なお本展の音声ガイドは、映画『利休にたずねよ』で利休の妻・宗恩を演じた中谷美紀氏が務める。11月8日に東京国立近代美術館で開かれた報道発表会では、十五代吉左衞門氏とともに登壇し特別対談を実施。中谷氏は「私は表現者として、自分という人間をいかに消せるか、媒介に徹することが出来るかを常に考えています。(音声ガイドでも)お茶碗の良さが伝わるように心掛けました。若い方が見てもため息が出るような作品ばかりです」と本展を紹介し、吉左衞門氏は「楽茶碗は時代の中に生きてきた。それぞれの歴代が時代の中で戦ったかたちが、一つ一つの茶碗に残っている。僕も常に時代と向き合い、新しい自分でありたい」と語っている。

 

 

「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」

【会期】2016年12月17日(土)~2月12日(日)

【会場】京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町)

【TEL】075-761-4111

【休館】月曜、祝日のとき翌日

【開館】9:30~17:00(入館は16:30まで)

【料金】 一般1,400円 大学生1,000円 高校生500円 中学生以下無料

【巡回】3月14日(火)~5月21日(日) 東京国立近代美術館

 

【関連リンク】「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」特設サイト

 


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