[寄稿] 古代への憧憬―近代に花開いた古典の美―:安永幸史

2016年10月12日 09:50 カテゴリ:最新のニュース

 

歴史画に見る「古代」のイメージ

 

堂本印象「太子降誕」1947年 絹本着色 二曲一双屏風 173.0×192.0cm

堂本印象「太子降誕」1947年 絹本着色 二曲一双屏風 173.0×192.0cm

 

 

本展覧会は、基本的に歴史画を扱った企画である。日本近代美術において歴史画が大きなテーマであったことは、先学によって指摘され続けているが、本展ではその中でも主題を絞って、飛鳥・奈良時代などの古代日本を主題とした絵画を主に展示する。

 

扱う主題を限定した理由は、「歴史画」とひとくくりするのではなく、特定の主題が近代に持っていた意味を探るためである。現代でも、平安時代と飛鳥・奈良時代とでは全く異なる印象を受けるはずである。近代においてもそれは同様であり、「古代」のイメージには、独特の主題が存在している。

 

堂本印象「橿原の図(若き武人)」1937年 橿原神宮蔵

堂本印象「橿原の図(若き武人)」
1937年 橿原神宮蔵

吉村忠夫「麻須良乎」1941年 福岡県立美術館蔵

吉村忠夫「麻須良乎」1941年 福岡県立美術館蔵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一例を挙げると、戦前期には、堂本印象《橿原の図(若き武人)》(橿原神宮蔵)や吉村忠夫《麻須良乎》(福岡県立美術館蔵)のような、古代の武人の姿を描いた歴史画が、比較的多く見られるようになる。これは、戦争という当時の情勢が大きな影響を与えているものと考えられる。画材の都合上、日本画は洋画と比べて戦争場面の直接的な描写には向かない。そのため、より象徴的な手法で戦意高揚などの意味合いを持つ絵画が制作されていくこととなる。その結果が、先述した堂本印象や吉村忠夫による武人像の制作であると考えられる。こうした戦意高揚の際に選ばれたものが、「古代」の武人の姿であることは非常に興味深い。それは、武士とは異なり、「天皇の兵士」という意味合いを感じさせる姿であり、一連の戦争を国民の意識の中でどうのように位置付けようとしていたのかがうかがえる。こうしたイメージは平安文化とは異なる、「古代」イメージの独自の特徴と言えるだろう。

 

これはあくまで一例であり、「古代」のイメージには『万葉集』と関連したロマンティックな面も存在している。戦争と関連する歴史画から『万葉集』のロマンまで、「古代」のイメージには様々な側面があるが、それらは近代社会の中で生み出されたものであり、そのイメージを読み解くことは、近代社会のある一面を理解することでもある。本展覧会が「古代文化」と近代社会との関わりを再考する一助となれば幸いである。

(奈良県立万葉文化館学芸員)

 

 

関根正二「天平美人」1917年 大阪新美術館建設準備室

関根正二「天平美人」1917年 大阪新美術館建設準備室

 

 

【展覧会】古代への憧憬―近代に花開いた古典の美―

【会期】2016年10月15日(土)~11月27日(日)

【会場】奈良県立万葉文化館 日本画展示室(奈良県高市郡明日香村飛鳥10)

【TEL】0744―54―1850

【休館】月曜、祝日のとき翌平日

【開館】10:00~17:30(入館は17:00まで)

【料金】大人1,000円 高校・大学生500円 小中学生無料

【関連リンク】奈良県立万葉文化館

 

講演会「歴史画の〝発端〟~浮世絵師・月岡芳年の歴史画を軸に」

【日時】2016年10月15日(土)14:00~

【講師】菅原真弓(和歌山大学准教授)

【料金】無料、申込不要(先着150名)

 

 


関連記事

その他の記事