インタビュー:「第二十回東美特別展」 ― 美術館クラスの名品との出会い

2016年10月04日 10:12 カテゴリ:最新のニュース

 

美術館クラスの名品を 触れられる間近から

吉田浩之・「第二十回東美特別展」準備委員長インタビュー

 

「東美特別展」準備委員長の吉田浩之氏(赤坂水戸幸・代表取締役社長)

「東美特別展」準備委員長の吉田浩之氏(赤坂水戸幸・代表取締役社長)

 

国内を代表する美術商が集い、美術館クラスの名品に出会えるアートフェアとして、20回目の開催を迎える「東美特別展」(10月14日~16日・東京美術倶楽部 東美ミュージアム)。「名品を取り揃えるには時間が必要」との考えから3年に一度の開催を続け、独自の風格を築きあげてきた。しかし、その「風格」ゆえに、比較的若いアートコレクターや美術愛好家への周知が不十分だという課題も見える今、伝統と変革をどう考えるか。今展・準備委員長の吉田浩之氏(赤坂水戸幸・代表取締役社長)に話を聞いた。

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

―「東美特別展」は日本で最も歴史の長いアートフェアです。その始まりをお聞かせください。

 

吉田浩之氏(以後、吉田) 1964年、東京オリンピックの年に開催した「オリンピック記念古美術展観特別即売会」が始まりです。海外の要人が多く訪れるこの機会に、日本美術をより広く知ってもらおうとしたわけです。会場であった東京美術倶楽部も、現在のビルではなく、歌舞伎座風の純日本家屋で、室内の多くが畳敷きでした。各店のブースも広く、赤坂水戸幸ではお茶をたてるために立礼台(りゅうれいだい)を持ち込んでいました。会場には、のちに美術館をお作りになるようなコレクターの方々も多く、私が若かったこともありますが、今よりももっと重厚な雰囲気でしたね。

 

 

〈左〉 井上真改/二代和泉守国貞     (表)(銘)井上真改 (裏)菊紋延宝三年八月日 [杉江美術店] 〈右〉志野橋の絵茶碗 [赤坂水戸幸]

〈左〉 井上真改/二代和泉守国貞 (表)(銘)井上真改 (裏)菊紋延宝三年八月日 [杉江美術店]
〈右〉志野橋の絵茶碗 [赤坂水戸幸]

 

 

―それから半世紀余り、変化はありましたか。

 

吉田 「見ていただく」という要素は強まっています。各ブース、展示空間にもよりこだわるようになってきました。コレクターの皆さまには長年にわたってお引き立ていただいておりますが、一方で、お客様の層が広がらないという課題があります。「次世代を育てる」など偉そうなことは言えませんが、その先の世代までを目標に、「東美特別展」を知っていただけるようにしていきたい。そういった願いから、アートフェア東京を手がける一般社団法人アート東京さんとの企画協力を始めました。伝統ある「東美特別展」が、時代とあって、うまく変化していければと思います。

 

―他のアートフェアにはない、特徴を教えてください。

 

吉田 この会場には、古美術、茶道具、近現代美術、刀剣の4ジャンルから選りすぐりの作品が揃います。各出展者が3年をかけて取りそろえた美術館クラスの名品も、なかには手にとって、触れることのできる作品もあるのです。茶碗ならば、手取りや実際の重さが非常に大事。記憶にも強く残ります。

 

 

〈左〉奥田小由女「招幸鳥」 [靖雅堂夏目美術店] 〈右〉北大路魯山人「呉須花入」 [三溪洞]

〈左〉奥田小由女「招幸鳥」 [靖雅堂夏目美術店]
〈右〉北大路魯山人「呉須花入」 [三溪洞]

 

 

―現代の作品から長い時間を経たものまで、ラインナップには広がりがあります。とくに、古い作品の魅力は何でしょうか。

 

吉田 例えば、赤坂水戸幸が扱っているものは、だいたい200年や250年の時間を経ています。それでも時代を感じさせない新しさ、きれいさがある。お茶で「きれいさび」ともいう世界です。比較的、古くてもきれいなものが私は好きです。では、なぜ、きれいなものが残っているか。じつは、海外の一部で、日本のコレクターの名前がブランド化しています。それは、保存状態が非常に良いためです。日本ではきれいに包んで箱に入れ、二重箱、三重箱にして、土蔵にしまう。四季を大切にするので、一年中ずっと飾ることも、使用することもない。そういった文化も知ってほしい。

 

―茶道具に関心のある若いアートコレクターには、どのように「入門」すべきとアドバイスをされますか。

 

吉田 お茶の最終形は「お茶事」といって、4時間ほどをかけて、亭主がすべて給仕をし、料理を食べて酒を飲み、濃茶、薄茶をいただく。すると、茶室も茶庭も必要になりますが、そこまでなさる方はごく一部です。お茶を始めたいという方には、まず、お茶事を体験していただく。すると、良いものですねとおっしゃることが多い。若い経営者の方が会社に茶室を作り、海外からのお客様を接待すると、商談がほぼまとまるとも聞きます。どんな理由であれ、お茶を利用してもらえば良いと思います。秀吉と利休であっても、茶道具を利用しての戦略もあった訳ですからね。

 

 

〈左〉鳥海青児「ブラインドを降ろす男」 [丸栄堂] 〈右〉古越磁(越州窯青磁)羊 [浦上蒼穹堂]

〈左〉鳥海青児「ブラインドを降ろす男」 [丸栄堂]
〈右〉古越磁(越州窯青磁)羊 [浦上蒼穹堂]

 

 

―「東美特別展」の会場でもお茶をいただくことができますが、こちら(赤坂水戸幸)にも茶席があります。

 

吉田 父が言っていたのは、うちは茶席で見せるのが「ショーケース」だということです。これは外国にはまず無い文化ですし、かたくなに茶事を行い、商売をしています。器用さも無いので古いものだけを扱い、その上で商売としてダメになったなら、やめてしまえばいいと考える頑固な店があっても良いのではないでしょうか。

 

―そういった伝統こそが「東美特別展」の魅力ですが、同時に変化もあるようですね。

 

吉田 「敷居が高い」「話しかけづらい」雰囲気がこれまでありましたので、一般来場者向けと、報道関係向けの解説付きツアーを予定しています。それと、中国の少数民族の青年団60名を招待する企画もあります。

 

 

〈左〉青木木米「溪山煎茶図」 [平山堂] 〈右〉香月泰男「風船賣」 [ギャラリー広田美術]

〈左〉青木木米「溪山煎茶図」 [平山堂]
〈右〉香月泰男「風船賣」 [ギャラリー広田美術]

 

 

―映画『シン・ゴジラ』で使われた片岡球子作品を、会期中に展示することも話題です。

 

吉田 これまでだったら、絶対にそういったことはやりませんでした。でも今は、できることを全部やる。まずは、多くの方に会場へ来ていただき、「東美特別展」ならではの面白さを知っていただきたい。次の第21回展は、東京オリンピック・パラリンピックの開催時期とも近いですから、もっと盛り上げていきます。

 

―美術館や博物館に収蔵されうる一流品を手にとって鑑賞できる機会は、まずありません。「展覧会」としても、美術愛好家や若いアートコレクターに足を運んで欲しいですね。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

会場では「具体」の白髪一雄(祇園画廊)や、現代アーティスト・杉本博司(瀬津雅陶堂)の作品展示も予定されている。一流の作品を「見る」だけでも楽しめるだろう。「もし、買うならば」と考えてみれば、見方も変わる。東京美術倶楽部を会場とするものでは、このほかに「東美アートフェア」「東美正札会」が今後開催される。それぞれ巡り、美術品、美術商の厚みを肌で感じ、自分にふさわしい一品を探してほしい。

(聞き手:袴田智彦/協力:一般社団法人 アート東京)

 

 

【会期】2016年10月14日(金)~16日(日)

【会場】東京美術倶楽部 東美ミュージアム(東京都港区新橋6-19-15)

【TEL】03-3432-0191

【開場】14日=10:00〜19:00 15日=10:00〜19:00 16日=10:00〜17:00

【料金】一般1,500円 中・高・大学生1300円 小学生以下無料

 

【関連イベント】

■オープニング・プレビュー
日時:10月13日(木) 17:00~20:00
入場料:8,000円

 

【関連リンク】東美特別展 東京美術倶楽部

【関連記事】『シン・ゴジラ』首相官邸のあの絵が見られる!東京美術倶楽部が片岡球子作品を特別展示

 

《チケットプレゼント》

同展の招待券を5組10名様にプレゼントいたします。メールのタイトルに「東美特別展チケットプレゼント」とご記入の上、①郵便番号・住所 ③氏名 ④年齢 ⑤職業 ⑥当サイトへのご意見 ⑦今後当サイトで取り上げてほしいコンテンツ を以下のメールアドレスまでお送りください。

present@art-news.co.jp

締切:10月7日(金)必着

 

 


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