インタビュー:進化し続ける日本画家 絹谷香菜子

2016年05月24日 13:43 カテゴリ:最新のニュース

 

 

国内外アートフェアでの作品発表などを重ね、注目を集める日本画家・絹谷香菜子(31)の新作個展が、5月25日より西武池袋本店にて開催される。英国留学、そして結婚と、人生における大きな転機をこの5年で迎えた画家は、今日までどのようなテーマの変遷を辿り、何を想い筆をとるのか。アートシーンの第一線を駈け続けるその素顔に迫りたい。

 

2011年の英国留学前までは、人間によってつくりだされた「人工的な美しさ」をテーマにした鶏や、擬人化した鶴など鳥類をメインモチーフに制作してきた。しかし、英国で異文化に触れ、人種・価値観・様々な多様性を目の当たりにすることで「モチーフを限定せず、もっと色々な動物を描こう」と考えるようになったという。帰国後の個展「―生命の樹―」で発表したのは、大樹の下に肉食のものも、草食のものも、体の大きさも様々な動物たちが集う楽園のような大作だった。「英国では住まいからほど近い所で暴動が起こり、窓ガラスが割れたり、車が燃えていたりと、当時身近で起こる惨事が不安な気持ちとして積み重なり、平和や穏やかさを求める気持ちとして、作品に現れたのだと思います」。画面はその後、極限までシンプルに、動物の顔にクローズアップされていく。惑わされず、暗闇に埋もれず、決然と歩みを進める動物たち。その表情はさながら私たち人間のように豊かで深い味わいをもつ。「動物をモチーフとはしていますが、私が描き出そうとしているのは“人”なんです。人の姿勢や精神です。ただ、人間の顔にはあまりにも情報が多すぎる。余分な情報、複雑な部分を削ぎ落とし、純化する。そのエッセンスを動物の姿に託して描いているのです」。

 

昨年には、長崎にオープンした「軍艦島デジタルミュージアム」に、島の全景を描いた水墨作品「Wonder Island」を展示した。2015年7月に世界文化遺産登録され国内外から注目を集めている軍艦島の全景を、島で採取された石炭を絵具にして描いた作品。クリエーター集団「ZERO-TEN」が手がけるプロジェクションマッピングによって、水墨作品の前に鑑賞者が立つとセンサーが認識し、島の風景が時間の経過とともに刻一刻と変化し、当時繁栄していた幻想的で美しい軍艦島にタイムスリップするインタラクティブな試みが話題を呼んでいる。日本画とプロジェクションマッピング。なかなか聞かない取り合わせだが「光も素材のひとつ」と朗らかに笑う。

 

5月の新作展では、「ことのはじまり」「良いこと」「縁起」をテーマに、淡く光沢を抑えられた背景に―牡丹に蝶―、―梅に鶯―といった縁起の良いものたちを生き生きと描いた作品を展示する。「感じ方はひとそれぞれですが、私の絵が観てくださる方の何か“はじまり”になればと思っています」。多くの作品が金箔の上に薄くすいた和紙「典具帖紙(てんぐじょうし)」を貼り、そこに描いたもの。箔という割れやすい素材を保護する意味もあるが、何より和紙という素材そのものの美しさ、素晴らしさを伝えたい。素材の良さを引き出すことは「趣味と言っても良い」という。見どころは、瑞獣である麒麟が金色の月夜に舞う二曲半双屏風や、曲げても3m50cmある六曲屏風に描く二羽の鶴による風神・雷神図である。

 

最近では、作品の鑑賞者への影響を強く意識して制作しているそうだ。「一枚の絵を描いてそこで完成ではなく、その先の意味までしっかりと考えていきたい」。そう語る日本画家の眼差しは強く、まっすぐで、あゆみを止めず前進し続ける凛とした「現代」の女性を感じた。

(取材・撮影:坂場和仁/協力:新生堂)

 

 

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絹谷 香菜子 (Kanako Kinutani)

 

1985年東京都生まれ。2007年多摩美術大学絵画科日本画専攻卒業。2009年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了、「サロン・ド・プランタン賞」東京藝術大学、「安宅賞」東京藝術大学。2010年三菱商事アート・ゲート・プログラム第7回出品。「第14回かまぼこ板絵国際コンクール 小さな美術展」(鈴廣蒲鉾、神奈川)。2011年吉野石膏美術財団在外研修員としてロンドンに留学。「成都ビエンナーレ2011」(成都、中国)。2013年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程満期退学。2014年個展「絹谷香菜子―生命の樹―」(東京、大阪、京都、神奈川巡回)。「絹谷香菜子・山﨑鈴子二人展」(東美アートフェア)。2015年個展「絹谷香菜子展」(アートフェア東京)、軍艦島デジタルミュージアムに「Wonder Island」を展示。

 

「絹谷香菜子日本画展」

【会期】2016年5月25日(水)~31日(火)

【会場】西武池袋本店 6階 西武アート・フォーラム(東京都豊島区南池袋1-28-1)

【TEL】03-3981-0111

【休廊】会期中無休

【営業時間】10:00~21:00 ※最終日は16:00閉場

 


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