特別対談:奥谷博×山本貞 第83回独立展&第69回二紀展 開催記念

2015年11月05日 15:51 カテゴリ:二紀会

 

美術団体の今を考える

 

 

日本における美術団体の歴史が100年を超えるなか、戦後において両雄並びたつ存在として歩みを続けてきた独立美術協会と二紀会。両会の支柱である奥谷博氏と山本貞氏に美術団体の歴史と今を語っていただいた。

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■団体展に大作を発表する意味

 

―会のリーダーとして、ひとりの作家として、60年近く団体展に出品してきた中で思う事は何ですか。

 

奥谷博《バイヨン―クメールの微笑―》 第83回独立展

奥谷博《バイヨン―クメールの微笑―》 第83回独立展

奥谷:私は怠け者ですから(笑)、1年に1作大作を描くということは一つのリズムみたいなもの。20歳代から出して50年余りになるけれども、10月が近づいてくると、秋の独立展がきたなあと燃えてくる。今年の独立が終わったら、次の独立のことを考えながら、他の展覧会に出しつつ、大作ということを考えて描いています。この歳になると、いろんな発想が浮かんでくるので、常に手帳を持っていて、それにさまざまなことを書くわけです。こういうものを描きたいとか、文字で書いたり線で描いたり、その中から発想が出てくる。5年ぐらい経ってそれがフッと出てきたり。考えながら詰めていってイメージが出てくる場合とか、いろいろあるんですね。私の発想の源はそれに全て入っているんです。

 

山本:リズムという言葉が出てきましたが、非常におもしろいなと思って聞いていて、団体展の会期というのは大体決まっているものだから、それを中心にして、長い間にリズムが取れているという感じはありますね。そのなかで大作というのは、大きいグラウンドですから、球がそっぽへいったって大丈夫みたいな感じがあって、気持ちが広々とします。個展をやるときに、二紀展に出した大作が、何点か出るでしょう。それが一つのバックボーンになっていくという、大きなメリットもあります。道標という言葉があるけれども、それがないとフラフラするし、大きな句読点の一つになっていますね。

 

奥谷:大作を描く、といえばやはりすごく楽しいものです。描く喜びというのかな。団体に属してなくても大作は描けるけれど、大作を描けると本当に気持ちが晴れるというか、絵を描く魂というか全部ぶつけられる。だから団体展の時期が近づくと、苦しいときもあるけれど、やはり僕は楽しいね。どうですか?

 

山本:そうですよ。部屋も、あんなに大きい所でやたら飾れないでしょう。やはり200号近い大きさだと美術館がいいですね。

 

 

■団体展とは自らが感じる場

 

―先生方は大学在学中から出品してきたわけですが、団体展で学んできたこととは何ですか。

 

山本貞《風のままに》 第69回二紀展

山本貞《風のままに》 第69回二紀展

山本:団体展の環境の中で自分が学んだことというのは、はっきりとした自覚はないですね。学ぶということは、道を歩いていたって気づくものはあるだろうし、画家の場合はヨーロッパやあちこち行って、そこで他の国の絵画を見て学ぶということもあるでしょう。すると団体展でも確かに学べるけれど、最初のうちは幼なじみもいるようなふわふわしたところで体験していって、だんだん抜けていくのではないでしょうか。

 

奥谷:団体展で学ぶというのは、教えるということではなくて、大学とは違う友達や社会を経験した人などと知り合いになり、そして結局作品を五感で感じると言いましょうか、いろんな人と比べて見られる、それが団体展のよさ。自分に力がないということに気づき、もっと努力しないといけないと感じられる場所じゃないかと思うね。

 

山本:我田引水という言葉があるけれども、アトリエで一人で制作していると、夜の作業から朝になって「結構いいなあ」なんて思ったりするわけです。これはいけそうだとか、少し野心が燃えてきて団体展の会場へ運ぶでしょう。すると他の作家ともろに比較ができる。アトリエの中というのは自分の絵だけだから、ところが何かとんでもないのが出てきて、そういうのに食ったり食われたりという。陳列というものはそういう作用があって、がっくりきたりするということがあるし、より自信もついたり。

 

奥谷:今がっくりと言ったけど、がっくりくるのが本当に、厳しいですね。そういう厳しさというのは、僕は作家になる…。

 

山本:そうだね、訓練の一つ。

 

絹谷幸二《喝破》 第89回独立展

奥谷:皆、団体展に出している人はそういう経験をしているんです。そして徐々に打たれ強くなって少々のことではへこまなくなってくる。それは貴重な体験ですよ。我々は50年もそれをやっている。やはり作家として生きていく上で必要なことですね。そもそも絵を教えるということは大変なことだと思うんです。大学だと、教育して教えていく。石膏デッサンとか油の基本とか、そういうことを教えるけど、団体展は教えるというよりも、自分で感じてもらわないと。僕らが学生の頃、林武先生に教わっていても、林先生は隣へ立って、何も言わないで見ているだけなんです。こちらもその空気が伝わってくるでしょう。そうすると作品の悪いところが見えてくるというのか、そのような指導を受けたんです。

 

山本:自分が納得するということが一番大事で、納得する環境を作ってあげるということぐらいがいいのかね。学校は教室というものがあって黒板があってという環境でしょう。公募団体というのはそういう施設は何もないんだから、いま林武さんの話が出たけれど、この人は自分で確固たる道を切り開いた人だ、という尊敬心みたいなものを持っている人がじっと見ておられるというのはいいね。

 

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団体展出品者と公募展の現状

 

 


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