北陸新幹線開業記念 没後30年 鴨居玲展 踊り候え:清水広子(東京ステーションギャラリー学芸員)

2015年05月25日 08:00 カテゴリ:最新のニュース

 

 

人間の心の闇を鋭く抉る

 

 

「自画像の画家」と称される洋画家 鴨居玲が57歳で永眠して30年となる今年、東京では25年ぶりとなる回顧展を開催する。鴨居玲(1928~1985)は、金沢で生まれ、金沢美術工芸専門学校(現在の金沢美術工芸大学)で宮本三郎に学ぶも、制作は思うに任せず、南米、パリ、ローマを放浪。帰国後、「もうあとがない」と描いた《静止した刻》で、新人洋画家の登竜門であった安井賞を1969年に受賞した。このとき41歳。

 

自信を深めた鴨居は、スペインのラ・マンチャ地方にあるバルデペーニャスに移住。親しみを込めて「私の村」と呼び、素朴で陽気な地元の人たちと交流するうち、飲んだくれの酔っぱらい、背を丸めた皺だらけの老婆、肢体を失った傷痍軍人などと出会い、彼らをモティーフにした《酔っぱらい》《おばあさん》《廃兵》などの代表作が誕生した。

 

パリ滞在の後、晩年を過ごした神戸では、裸婦や恋人たちのような趣の異なる作品も手掛けるが、結局は自画像を突き詰める。群像の大作《1982年 私》《出を待つ(道化師)》《勲章》といった鴨居自身を描いた作品ばかりでなく、外国で出会った市井の人々、不安定に浮かぶ教会の絵までもが自画像とされる。カンヴァスの横に大きな鏡を置き、映った自分の姿を見ながら描いた鴨居は、見たままを写実的に表現するのはなく、モティーフに自らを投影し、人間の心の闇―不安、孤独、悲哀、絶望、醜悪―を鋭く抉り、さらけ出して描き続けた。自己の存在を問い、心身を削るように描かれた作品は、見る者に迫り、今も多くの人の心に強く訴えかけてくる。

 

本展では、年代を追って3章に分け、これに加えて第4章に、鴨居が重視し、人気も高いデッサンの作品を展示。また、出品作品約100点のうち、《自画像(絶筆)》をはじめ、30点あまりが初出品というのも、見どころの一つといえよう。没後も5年ごとに展覧会が開催されてきた稀な画家だが、これまでの展覧会をご覧になった方にも、新たな発見を探して、じっくりご堪能いただきたい。

(東京ステーションギャラリー学芸員)

 

【会期】2015年5月30日(土)~7月20日(月・祝)

【会場】東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1-9-1) TEL03-3212-2485

【休館】月曜、ただし7月20日は開館

【開館】10:00~18:00(金曜は20:00まで、入館はそれぞれ閉館30分前まで)

【料金】一般900円 高校・大学生700円 中学生以下無料

【関連リンク】東京ステーションギャラリー

 

 


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