平成26年度(第65回)芸術選奨文部科学大臣賞・同新人賞 決まる 中村一美氏、高谷史郎氏など受賞

2015年03月19日 15:03 カテゴリ:最新のニュース

 

文部科学大臣賞に佐藤時啓氏(美術)、中村一美氏(美術)、高谷史朗氏(メディア芸術)ら

同新人賞に齋藤正氏(美術)、上田假奈代氏(芸術振興)、前田恭二氏(評論等)ら

 

文化庁は3月12日、美術・音楽など芸術11部門において優れた業績を挙げた、または新生面を開いた人物に対して贈る、平成26年度(第65回)の芸術選奨文部科学大臣賞18名と同新人賞11名の受賞者を発表した。美術関係の受賞者と贈賞理由は以下の通り。

 

 

文部科学大臣賞【美術】部門

佐藤時啓氏

東京都写真美術館で2014年5月から開催された「佐藤時啓 光-呼吸 そこにいる、そこにいない展」の成果が評価されての受賞となった。ペンライトや鏡を使って長時間露光をしているフィルムに行為の軌跡を刻印してゆく「光―呼吸」シリーズ、複数のピンホールを持つ自作カメラによる360度のパノラマ写真の「Gleaning Lights」シリーズ、人が中に入れる移動式カメラ・オブスキュラを使った「Wandering Camera」シリーズなどによって、写真が人間の身体感覚をどのように変容させてきたかを見事に視覚化してきた。

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文部科学大臣賞【美術】部門

中村一美氏

フォーマリズム絵画の超克を自らの課題とする中村一美氏。アメリカの戦後絵画や、ときには日本・中国の古画に独自の解釈や思索を織り込みながら長大な連作群を制作してきた。昨年国立新美術館で開かれた「中村一美展」は氏の創作活動を集大成する回顧展であるとともに大画面の「存在の鳥」18点による意欲的な近作発表の機会ともなり、「個々の作品の差異を通じて一個の意味の場を開示する」という積年の絵画思想の成果を示したことが受賞へとつながった。

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文部科学大臣賞【芸術振興】部門

山野真悟氏

平成2年の福岡での「ミュージアム・シティ・プロジェクト」以来、日本における「まちとアート」をつなぐムーブメントの先駆者であり、平成20年より活動拠点を横浜に移し、「黄金町バザール」ディレクターに就任した。黄金町界隈の特殊飲食店跡やガード下などの施設に内外のアーティストの滞在型制作による作品の展示を基本とするこの企画は今年度14年度「横浜トリエンナーレ」及び「東アジア文化都市」の一環として「仮想のコミュニティ・アジア」をテーマに国際美術展としての新段階を画するものとなり、大きな実りを結んだ。

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文部科学大臣賞【評論等】部門

野村正人氏

「諷刺画家グランヴィル テクストとイメージの19世紀」が受賞へとつながった。グランヴィルのカリカチュアの類いまれな魅力と意義を余すところなく伝える同書。挿絵の地位向上を目指す特異な人物の生涯を語り、判じ物めいた挿絵や諷刺画を丁寧に解読し、当時の出版、視覚文化との密接な関係を解明する叙述の背後には堅実な学識と研鑽がある。文学と視覚芸術にまたがる豊穣な研究成果であり、カリカチュアこそフランス文化の伝統だと教えてくれる好著とされた。

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文部科学大臣賞【メディア芸術】部門

高谷史郎氏

個展「明るい部屋」において、写真を起点とする光学的な複製技術画像の成立過程そのものを考察の対象にし、ピントグラスからフルハイビジョン映像まで、画像を成立させている表象技術と知覚の関係性を表現の内部から思考した作品群を発表した。静止的現象から可読的知覚を超えた動的な時間性に至る幅広いレンジを映像/音響を駆使して相互参照的に展開するもので、メディア史の批評性を展覧会全体構成に内在させる精緻かつ高完成度のクリエーションとして稀有な試みと評価された。

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新人賞【美術】部門

齊藤 正氏

丸亀市を拠点に活躍する建築家。地元で昔栄えた塩飽(しわく)大工を再組織化し、東日本大震災支援のために「ZENKON湯」という名の風呂を被災地に17棟建設したり、瀬戸内国際芸術祭では建築素材の乏しい地で、土と海で採れる苦汁(にがり)と消石灰を混ぜて突き固めて構築する「版築」という今はほとんど見られない工法をセルフビルドで実現し、その成果をHANCHIKU HOUSEに結実させた。さらにエボラウィルス対策グッズ開発など常に芸術活動を通じて社会に貢献する姿勢が高く評価された。

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新人賞【芸術振興】部門

上田假奈代氏

自らも詩人である上田假奈代氏は、平成15年、NPO法人「こえとことばとこころの部屋」を立ち上げた。現在は日雇い労働者の町・釜ヶ崎(大阪)で運営するカフェ・ココルームを拠点に、表現行為を通じた居場所づくりや生きがいづくりに取り組んでいる。アートによる社会包摂という概念が一般的でない頃から、地域社会で特色ある活動を継続してきた点は高く評価できる。平成26年には「横浜トリエンナーレ」への参加など新しい展開も見られた

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新人賞【評論等】部門

前田恭二

明治期の文学と美術を同時に視野に収めた「絵のように 明治文学と美術」が新鮮な力作として評価された。当時の文学者たちが「美術」をいかに意識し、語り、作品に組み込んだのかを裸体画や写生、骨董や浮世絵などのテーマをめぐり詳細に検証した。明治文学を美術の視点から再読し、そのリアリティを蘇生させた手腕が高く評価された。

 

 

 

 

 


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