アートフェア東京はどう変わってきたのか―「社会にコミットするアートフェア」

2015年03月09日 17:14 カテゴリ:最新のニュース

 

 

2005年に第1回が開催され、今年10回の節目を迎える日本最大のアートフェア「アートフェア東京」(以下AFT)。26の初出展を含む130以上のブースが出展する今回はこれまでのAFTとは異なる会場構成で3つの企画展を展開するなど、これまでにはない試みがなされようとしている。2011年から同フェアに携わる金島隆弘氏にAFTのこれまでの推移とこれからの展望、そして今回の見どころまでを聞いた。(インタビュー・テキスト:橋爪勇介)

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■アートフェアがどうあるべきかということを模索し続けた5年間

―今回で10回目の節目を迎えるAFTですが、金島さんがディレクターなって以降、AFTがどのように変わってきたのか、あるいは変わらなかったのか。その推移について教えてください。

 

金島:私が入った2011年前後は本格的に世界の中でアジアが躍進し始めた時期で、日本がアジアを含む海外に対し、どのようなアートフェアを提示していくべきかが議論されていました。前任の辛美沙さんが積み上げてきたものを引き継ぎながら、どのように国際的に発展させられるかという意識を持ってスタートしようと思っていた矢先、東日本大震災が起こり、AFT自体も7月開催へと延期に。「国際化」が1つの軸でしたが、その一方で「アートそのものの意義」を日本人が考える契機となりました。

 

金島隆弘

金島隆弘氏

 

そして、今年で5年目を迎えますが、国際化と同時に、日本自体がどうあるべきかという議論も並行して行われてきたと思います。現在日本各地には数多くの国際展やアートイベントがありますが、それを「ガラパゴス」だという人もいれば、本質的な日本におけるアートの在り方が出来てきているという意見もあります。その中で日本のアートシーン、アートフェアがどうあるべきかということを毎年模索し続けてきた5年間でした。

 

 

―就任以来「ディスカバー・アジア」をはじめ様々な企画を打ち立ててきました。中国をはじめアジアのアートシーンが活気づく今、あえて「ディスカバー・アジア」をやめたのはなぜでしょうか?

 

金島:11年には先ず、日本の美術を紹介する「アーティスティック・プラクティス」を始めました。そして翌12年に始めたのが「ディスカバー・アジア」。アジアの現代アートを日本の中でどう見せていくかという企画でしたが、今年はAFTの一週間前にアートバーゼル香港が開催され、今までAFTに出展していたアジアのギャラリーの出展が物理的に難しくなりました。そういった状況においてAFTの準備を進める中で、バーゼル香港に行かれる方が香港では見られないものを見に東京に来てほしい、という強い想いから今年は企画展を「アーティスティック・プラクティス」に集約し、多角的に日本の現代アートを紹介します。

 

 

―やはりアートバーゼル香港の会期が3月に変わったことは大きい?

 

金島:そうですね。色々な指摘もありましたが、香港からの帰りに東京に寄っていただく機会になりますから、「ディスカバー・アジア」の大型版がアートバーゼル香港だと考えてもらえれば(笑)。アジアの現代アートのダイナミズムは香港で体験いただき、香港では観られないものをAFTで、という想いから「琳派」や「もの派」などをテーマにした企画を考えました。

 

 

―AFTのプレゼンスを高めるという意味でも今回のように日本の現代アートに特化した「アーティスティック・プラクティス」となったわけですね。

 

金島:日本もアジアですので、欧米の方から見ればそれは「ディスカバー・アジア」でもあるんです。今年は10回記念ということもあり、さらに間口を広げるような広報もしていますので、海外からの更なる来場者の増加を目指しています。

 

アートフェア東京 2014会場風景 / 撮影:岩下宗利

アートフェア東京 2014会場風景 / 撮影:岩下宗利

 

■サウスウィングは「G-plus」が全体に拡がったものだとイメージしてほしい

―今回は古美術、工芸から、近現代の作品を中心に扱うギャラリーが一堂に会するノースウィングと、現代アートに焦点を当てたサウスウィングによって構成されていますね。これまでもその2つは分かれてはいましたが、より明確に線引きした理由はなんでしょうか?

 

金島:昨年「G-plus」というセクションを設けましたが、今回はそれがサウスウィング全体に拡がった、というイメージでしょうか。ブースの構成も小さいブースが沢山あるというよりは、インスタレーションなどの現代アートの展示に適したブースがサウスウィング全体で展開されるという構成になっています。そしてサウスウィングの中央には若手のギャラリーが出展しますが、これまでは脇を固めていたそれらのギャラリーを中央に設け、その周りを「G-plus」に出展していたギャラリーが囲むというレイアウトです。ですので、線引きしたというよりは若手ギャラリーと「G-plus」に出展していたギャラリーとがバランスよく出展いただいている形になっています。

 

アートフェア東京2015 会場レイアウト

アートフェア東京2015 会場レイアウト

 

―「G-plus」を拡大したということは昨年の「G-plus」に対する評価が高かったとういうことでしょうか?

 

金島:そうですね。よりダイナミックに広いブースを設けたり、ライトを工夫したりというのが好評でした。今回のサウスウィングの出展条件は去年の「G-plus」の応募要件とほぼ同じ内容になっています。

 

アートフェア東京2014で「G-plus」に参加したSCAI THE BATHHOSEブース

アートフェア東京2014で「G-plus」として出展したSCAI THE BATHHOUSE

 

―今回は3つある「アーティスティック・プラクティス」が全てサウスウィングに集約されているのでノースウィングが寂しい状態になるのでは、と思ってしまいますが…?

 

金島:実は当初、ノースウィングにも「アーティスティック・プラクティス」を設置する予定だったのですが、ノースウィングの出展希望が予想以上に多かったんです。そこで企画展か、ギャラリーの出展かを検討した結果、やはり少しでも多くのギャラリーに出展して頂こうということとなり、企画展をサウスウィングのみに集約したという経緯があります。ですのでノースウィングは今年、出展に至らなかったギャラリーも多いです。

 

 

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