【レポート】 「楽園としての芸術」展 記者会見開かれる

2014年06月16日 18:40 カテゴリ:最新のニュース

 

東京都美術館で今夏開催される「楽園としての芸術」展の記者会見が5月22日同館にて行われた。この展覧会は東京都美術館の自主企画展として障害者の芸術に焦点を当て、「アトリエ・エレマン・プレザン」(三重・東京)と「しょうぶ学園」(鹿児島)という2つの施設に所属する人々の絵画、立体、刺繍などを展覧するもの。
 
 

■企画への経緯
 

会見では同館学芸員・中原淳行氏が今展企画に至った経緯を次のように説明。

まず同館リニューアル後の大きな方向性について「当館は2012年に再出発した際、美術館としての新しいミッションを掲げました。それは『新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる創造と共生の場、アートコミュニティを築き、生きる糧としてのアートと出会う場とします。そして人々の心の豊かさの拠り所となること目指して活動をしていきます』という理想です」と語り、その上で「当館ではリニューアルの準備と同時に、この展覧会のために全国各地の障害者の施設を回っていました。その中で先ほど述べた『創造と共生の場』を築いて『生きる糧としてのアート』と日々出会っているような場所と奇跡的に出会うことができた。それが今回の展覧会の2つの主役である『しょうぶ学園』と『アトリエ・エレマン・プレザン』です」と述べた。

 

また今展タイトルに関しては、「今回『楽園としての芸術』とタイトルを付けました。英語ではArt as a Haven of Happinessです。美術と芸術の線引きは非常に曖昧で主観的なものですが、人が創りだしたもので(すぐには言葉で表せない)何らかの感情を観る人に与えられるものを『芸術』と呼ぶとするのならば、しょうぶ学園やアトリエ・エレマン・プレザンの人々が創りだすものを芸術以外に果たして何と呼ぶべきなのでしょう。生きる糧としてのアートというものの剥き出しの本質を見ることができ、『アートとは何なのだろうか』ということを感じる場となってほしいと思います」とそこに込められた意味を説明した。

 

 

中原淳行氏

■アール・ブリュットの概念を問う

 

なお今展ではアール・ブリュットという言葉が使われていないが、それについて中原氏は「昨今、アール・ブリュットが注目を集めています。それは硬直化していると言っていいような現代美術には無い何か、職業的に作品を創るという人たちには無い何かがあると多くの人が直感的に感じ取っているからだと思います。ただ障害といってもその種類は多数あり、例えばエレマン・プレザンの佐藤肇さんは『よいものを創りだす人がたまたま障害者であるということはあるけれど、障害者の芸術というものは存在しません』と仰っていて、共感するところです。アール・ブリュットの定義が曖昧だということもありますし、現在使われているアール・ブリュットで指し示される作品と、今展の作品にはかなりの乖離があるという判断から今回はアール・ブリュットという言葉は使っていません」とその理由を説明した。

 

また展示構成については「今回は普段公募団体展で彫刻などを設置するギャラリーAに特設のステージを設置し、そこでエレマン・プレザンの人たちに制作をしてもらおうと思っています(※公開の是非については検討中)。会期中に制作してもらい、どんどん展示作品が増えていくというようなことを計画しています。今展のチケットは2回入場できるようになっていますので、会場の変化を楽しんでいたきたい」と述べ、これまでにない企画の独自性をのぞかせた。展覧会は7月26日(土)より開催。

 

 

※「アトリエ・エレマン・プレザン」と「しょうぶ学園」

しょうぶ学園は1973(昭和48)年、鹿児島県吉野町において設立された知的障害者援護施設。設立当初は障害者の生活が楽になるように、大島紬などの下請け作業を行ってたが、現統括施設長である福森伸氏・福森順子氏夫妻の考え方を柱に、1985(昭和60)年頃から、障害のあるつくり手が本来もっている個性を最大限に活かせるような、つくる喜びにあふれた制作環境へと変化していった。

 

またアトリエ・エレマン・プレザンは1991(平成3)年、英虞湾を臨む風光明媚な三重県大王町の伊勢志摩国定公園のなかに、画家の佐藤肇氏と佐藤敬子氏夫妻によって設立。フランス語で「現代の要素」を表すネーミングには今この時代において、アトリエが重要な構成要素でありたいという願いが込められてる。今では三重の他に東京都・世田谷区経堂にもアトリエを構え、ダウン症の人たちを中心とした絵画制作が行われており、現在、三重のアトリエを拠点としてダウン症の人たちによる「固有の文化」を発信する芸術家村というべき「ダウンズタウン」設立の計画が始まっている。

 

 

「楽園としての芸術」展

【会期】 7月26日(土)~10月8日(水)

【会場】 東京都美術館 ギャラリーA・B・C

【休室】 月曜日、9月16日(火) ※9月15日(月)、9月22日(月)は開室

【料金】 一般800円 65歳以上500円 学生400円 高校生以下無料

【関連リンク】 東京都美術館

 

 


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