【レポート】 「札幌国際芸術祭2014」 記者会見開かれる

2014年03月14日 18:27 カテゴリ:最新のニュース

 

左から:岡部昌生氏、高谷史郎氏、宮永愛子氏、坂本龍一氏、進藤冬華氏、真鍋大度氏、毛利悠子氏、山川冬樹氏

 

今年7月19日よりスタートする札幌初の国際的なアートフェスティバル「札幌国際芸術祭 2014 (SIAF)」の記者会見が3月13日に六本木ヒルズで行われた。会見にはゲストディレクターの坂本龍一氏をはじめ、ゼネラル・プロデューサー武邑光裕氏、アソシエイト・キュレーターの飯田志保子氏、四方幸子氏、地域ディレクター端聡氏が登壇、同芸術祭の概要が説明された。

 

ゲストディレクターの坂本龍一氏(左)

 

■メインテーマ「都市と自然」

 

冒頭、坂本氏は今回のメインテーマである「都市と自然」について次のように述べた。

「北海道は近代からスタートした広大な土地、そして世界的に珍しく原野から街が造られていく様子が記録されている土地でもある。また北海道自体が日本の近代化とともに誕生し育ってきた街であり、炭鉱などで日本の近代化を支えてきた街でもある。そういうことを考えているうちに《都市と自然》という大きなテーマが浮かび上がってきた。特に3.11を経験した我々が自然といかに共存し、新しい文明を築いていくかを考えるときに、もう一度日本の近代を問い直す良い機会となるのではないかと考えている。3年に一度行われるこのアートフェスティバルだが、第一回目の今回は最初の種を蒔く時。最先端のアートが札幌から生まれて海外へと発信される人材・拠点創りを目指し、そのきっかけとしたい。」

 

また今年同じく開催される「ヨコハマトリエンナーレ2014」(会期=8月1日~11月3日)についても言及し、「(アーティスティック・ディレクターの)森村泰昌氏と話をし、ヨコハマトリエンナーレとSIAFの連携というアイディアが出た。現時点ではアーティストリストの中に互いのアーティストを入れるということだけで、具体的に何をするかは決まってはいないが、今後徐々に明らかになっていく」と話した。

 

加えて「能楽師・野村萬斎氏に声をかけ能楽の公演を行うことになった。能の原点である《翁》を上演し札幌を寿ぐとともに、北海道はかつてアイヌの土地であったので、アイヌの神事も同時に行いたいと思っている」という。

 

ゼネラル・プロデューサーの武邑光裕氏(右)

 

■メディア・アーツ都市としての札幌

 

ゼネラル・プロデューサーの武邑氏は札幌の現状を説明。「昨年、3年がかりで世界41で構成される『ユネスコ創造都市ネットワーク(メディア・アーツ都市)』の一員になった。現在メディア・アーツ創造都市はリヨン市(フランス)、アンギャン=レ=バン市(フランス)と札幌の3都市のみであり、アジアで初めてのメディア・アーツ都市として創造都市ネットワークの一員になったことがこの芸術祭を後押ししている。札幌が21世紀に向けて新しい国際都市としての役割と責任を果たすという意味で、この芸術祭に大きな力を注いでいく」と抱負を語った。

 

飯田志保子氏(左から2人目)

 

■企画展示「都市と自然」

 

アソシエイト・キュレーターの飯田氏は自身がキュレーションを担当する企画展示《都市と自然》(会場=北海道立近代美術館・札幌芸術の森美術館)および赤れんが特別展示《伊福部昭・掛川源一郎》展(会場=北海道庁赤れんが庁舎)について、「札幌に焦点を当てつつも、それだけではなく日本の中の札幌、もしくは北海道の中の札幌、それが国際的な枠組みの中でどういうふうに位置づけられていくかを念頭に置いている。基本的には北海道と日本の近代化の歩みを振り返りながらも、これからの自然と都市のありかたや科学技術の発展、エネルギーの変遷などを考えさせてくれるような作品で構成している」と述べた。

 

四方幸子氏(中央)

 

■チ・カ・ホ特別展示「センシング・ストリームズ」

 

続いて同じくアソシエイト・キュレーターでチ・カ・ホ特別展示《センシング・ストリームズ》(会場=札幌駅前通地下歩行空間 チ・カ・ホ)および《フォレスト・シンフォニー in モエレ沼》(会場=モエレ沼公園)を担当する四方氏は展示プランについて次のように語った。

「《水脈から創造脈》へをテーマに構成している。札幌は扇状地の上に形成されており、豊かな水脈の上にある。メイン会場は1日7万人が利用する札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)であり、元々湧水(メム)があった場所。現在の人々の流れと水脈、そして創造脈によって創造性を高めていけるようなプロジェクトをやっていきたい。」

 

また地域ディレクターで500m美術館企画展示《北海道のアーティストが表現する「都市と自然」―「時の座標軸」―》を担当する端氏は「3年前に作られた長さ500mの美術館を会場に、たった100年で形成された札幌という都市と膨大な時間を費やして出来た自然環境の新たな関係性を表現する。札幌は東西軸と南北軸で出来た街だが、ここに高層ビルや地層、そして星空などの垂直軸を加えたい。この座標軸には時間が宿っており、その軸を体感している北海道および札幌にゆかりのあるアーティストを紹介していく」とした。

 

尚、当日は参加アーティストの中から岡部昌生氏、高谷史郎氏、宮永愛子氏、進藤冬華氏、真鍋大度氏、毛利悠子氏、山川冬樹氏が登壇。海外アーティストとしてカールステン・ニコライ氏とA.P.I(アークティック・パースペクティブ・イニシアティブ)からビデオメッセージが寄せられた。

 

当日参加したアーティストの発言は以下の通り。

 

◎企画展示「都市と自然」参加アーティスト

岡部昌生

「根室に生まれ、ずっと北海道で美術表現をしてきた。芸術祭では2つの炭坑の遺構をフロッタージュした《YUBARI MATRIX》を出品する。日本の近代化を支えてきたのが炭坑だった。今回は床に敷き詰めたドローイングの全面を強化ガラスで覆い、その上を鑑賞者が歩くことで制作を追体験するとともに、炭坑の遺構を身体的に経験することで今の私たちの暮らしを支える近代以降のエネルギーの変遷と都市化の歴史に思いを馳せてほしい。」

 

高谷史郎

「科学者・中谷宇吉郎へのオマージュとして制作した映像インスタレーション《Ice Core》を出品する。中谷の言葉に『芸術と科学はガラスの表と裏のようだ』とある。(中谷が制作したガラス乾板を見ていると)彼は雪の結晶を物理学の対象としてを捉えながら、その向こうにある自然というものをアーティスティックに捉えていたことが感じられる。それが伝わるような展示にしたい。」

 

宮永愛子

「下見に行った時、最初は川を主題にした作品にしようとしていた。しかし調査を続けるうちに札幌の地下深部に興味が涌き、湧出する水の存在に着想を得た作品《そらみみみそら》の新作を発表することにした。貫入の音に耳を澄ますことで今私たちがいる場所、私たちの過去や未来を考えられるような作品にしたい。中谷宇吉郎に『雪は空から送られてきた手紙だ』という言葉があるが、私は『地中から来た手紙』のような作品を発表したい。水を使うが水は一滴もないのでどういう作品になるのかは楽しみにしてほしい。」

 

 

◎チ・カ・ホ特別展示「センシング・ストリームズ」参加アーティスト

進藤冬華

「北海道やその周辺地域にある伝統的なものを学び、その体験を基に制作を行っている。その中で気づくことは北海道の多様性。色々な地域から移住した人々が住み、独自の文化を持つ地域がいくつも存在する。今回はチ・カ・ホ空間の長さに合わせて、移動して見られるような作品を発表する。」

 

真鍋大度

「普段人間の眼には見えていないけれど、何かのセンサーを使うと見えてくるものを調べ、その中で浮かんできたのが電磁波だった。今はどういったセンサーが作品に使えるのかリサーチしている段階。今回は坂本龍一さんとの共作になるが、まだリサーチの段階なので最終的なアウトプットがどうなるのかはこれから決まっていく。自分にとってパブリックスペースでの展示は初めて。普通に展示をするだけだと美術館に比べて条件は悪いが、一日7万人が通る空間というのは膨大なデータが取得できるということでもある。そのデータを解析し何かできればと思う。パブリックスペースへのセンサーの設置というのは防災のためだとしても受け入れられないという現状もある。そういった意味でパブリックスペースへのセンサーの設置がどういった意味を持つのか考えたい。」

 

毛利悠子

「普段モーターやセンサーなど小さなテクノロジーと日用品を組み合わせたインスタレーションを制作している。すでに札幌には下見に来たが、様々なユニークな素材を色々と見つけ始めている。地域に縁のあるものと、私の小さなテクノロジーを組み合わせて、一つの風景を生み出せるようなインスタレーションをつくりたいと考えている。」

 

山川冬樹

「僕たちの身体・都市と自然を、水の循環は貫くようなかたちで存在しており、水の軌跡を辿ることで自然と都市という境界を越境していくことが出来る。今回の僕のコンセプトはそこにある。最初は湧水(メム)をリサーチしていたが、その跡地を見つけたときに強い喪失感を抱いた。それは都市化の結果の枯渇であり、都市と自然は密接に繋がっていることがよく分かる。しかし今回は視点を札幌を直線的に流れ、海へと繋がる創成川へ移し、そこを鮭のように遡ろうと考えている。それによって都市と自然がシームレスに繋がっていることを表し、作品を地下展示空間という縦の階層へと物理的に繋げていきたい。」

 

 

札幌国際芸術祭2014

【会期】 2014年7月19日(土)~9月28日(日)

【主な会場】 北海道立近代美術館/札幌芸術の森美術館/札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)/北海道庁赤れんが庁舎/

モエレ沼公園/札幌市資料館/札幌大通地下ギャラリー500m美術館ほか

【料金】

共通チケット(北海道立近代美術館と札幌芸術の森美術館に入場できるチケット)

一般1800円(1500円) 大学生1300円(1000円) 高校生800円(700円) 中学生以下無料 ※()は前売券料金

個別チケット

北海道立近代美術館 一般1100円 大学生800円 高校生500円 中学生以下無料

札幌芸術の森美術館 一般1100円 大学生800円 高校生500円 中学生以下無料

 

【主な参加アーティスト】

■「都市と自然」

スポード・グプタ/畠山直哉/平川祐樹/アンゼルム・キーファー/工藤哲巳/松江泰治/三原総一郎/中谷芙二子/中谷宇吉郎/カールステン・ニコライ/岡部昌生/トマス・セラーノ/高谷史郎ほか 会場構成=青木淳+丸田絢子

■「センシング・ストリームズ」

A.P.I/アンティエ・グライエ=リパッティ/毛利悠子/パク・ジョンソン/坂本龍一+真鍋大度/セミトランスペアレント・デザイン/進藤冬華/山川冬樹ほか

■その他個別展示など

坂本龍一+YCAM InterLab/大竹伸郎/島袋道浩/田島一成ほか

■パフォーマンス/ライブ/プロジェクト

高谷史郎/COMMUNE/エキソニモ/深澤孝史/YCAM InterLab+五十嵐淳/暮らしかた冒険家 池田秀紀・伊藤菜衣子/坂本龍一ほか

 

【関連リンク】 札幌国際芸術祭

 


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