【インタビュー】 馬渕明子 国立西洋美術館館長・独立行政法人国立美術館理事長に聞く

2013年11月18日 17:46 カテゴリ:最新のニュース

 

独立行政法人統合の問題には苦慮、女性美術家に焦点当てた企画展に意欲

 

今夏、独立行政法人国立西洋美術館館長ならびに独立行政法人国立美術館理事長、文化審議会委員に馬渕明子氏が任命された。美術専門畑からの女性館長就任は初めてのことだ。同美術館には主任研究官として勤務経験があり四半世紀ぶりの“復帰”となる。展覧会事業、進行中の文化振興型の2独立行政法人(国立美術館と国立文化財機構)の統合問題、また女性館長としての企画展の抱負などについて率直にお聞きした。

 

 

主任研究官として勤められていた国立西洋美術館に何年振りかで復帰されました。しかも美術館、博物館の女性館長としてはあまり聞きません。館長室での仕事に就かれての率直なご感想はいかがでしょうか。

 

馬渕明子国立西洋美術館長=同館長室にて

馬渕明子国立西洋美術館長=同館長室にて

馬渕 美術館には四半世紀ぶりですが、非常に嬉しい。美術史研究の専門家として女性の国立美術館長は初めてですので。美術館でいろいろ積み重ねた経験を元に今まで大学で教えていましたから。自分の研究者としての基礎を作った所ですし。それと自分が外から見ていて、どうして女性がこれだけ美術史の分野で活躍しているのに女性館長は少ないのかと前から思っていたので、その意味ではそういう時代が来たのかなと。私が勤めていた頃は学芸課10人に女性はひとりだけ、今は男女半々です。どこの博物館、美術館でも女性が増えてきて皆さん活躍しています。

 

研究官から女性館長になられる間に、国立美術館界も大きな変革があり、独立行政法人化され(2001年)、独法・国立美術館となりました。厳しい環境下で国立西洋美術館も運営されます。大手メディアとの共催展そして自主企画展と。これらをどう企画し、運営されますか。

 

馬渕 理想的には自主企画展を開く予算があって、美術館が主導的に学芸員の力で展覧会を立ち上げるのがいいのですけど、日本はそのようにはやってこなかった。大きなお金のかかる展覧会は新聞社・放送局と共催です。ただ30~40年長い間、それを積み重ねてくるとやはり、メディアの側でも人材も育ち、内容に理解のある方も多く出てきたりします。海外でもその点を理解して信頼してくれています。年に共催展3、自主企画3くらいの展覧会ペースです。

 

現在進行中の独立行政法人の統合問題(文化振興型の独法・国立美術館5館と国立文化財機構=東博・京博や東京、奈良の国立文化財研究所など=7館・所と日本芸術文化振興会の3つを一つに統合する国の方針)については、国立美術館・理事長のお立場からはどう対処されますか。

 

馬渕 ちょっと頭が痛い話です。やはり行政法人になってから今までの無駄を省いたり組織として持っている資産をどう有効活用するか、などきっちり詰めてやってきて随分と人も減りました。当館では、私がいた頃より10人くらい減です、特に事務方職員とか警備とか、全部アウトソーシングにしてきています。どんどん切り詰め無駄をなくしてきた中で、これ以上統合してどういう無駄を省けるのか、かなり疑問だと思っています。全体的に仕事量が増え、もういっぱい、いっぱいが現実です。正直、非常に戸惑っています。本当に統合して無駄が省けるという目途がたてばいいですけど。どうにも省く無駄はないのではないか、という気がしています。やはり国立美術館5館がお互い力を合わせてやっていますが、美術館と博物館が一緒になってこれ以上組織が大きくなると、それぞれ機能がかなり違うのに調整にも困るのではないか、ということもあります。

 

今年度はポーラ美術館さんとの共同開催がありますね。

 

馬渕 ポーラ美術館で始めて、後半は当館で開催します。互いの持っているモネを中心とした、印象派の一番いい作品を選んでモネが自然風景をどう見てきたか、を両コレクションでよりよく示せるという趣旨です。近場でもうまく組み合わせればこんなに面白い内容にできるのだという所をみて頂きたい。

 

コレクションの活用についてはどうお考えでしょうか。

 

馬渕 ここは松方コレクションというベースがあります。その後50年間、少しずつ集めてきているので上手い切り口で見せることで新しい鑑賞の仕方もあるでしょう。美術史のある側面、作家の特色が分かったり出来るよう、学芸員たちが知恵を集めての企画。今度はムンクの版画の展覧会を生誕150周年記念に合せ、開きます。来年度は指輪の展覧会を企画しています。西洋美術館は工芸品を持っていなかったのですが、一括して数百点の素晴らしい指輪の御寄贈を受けました、その古代からの変遷を見てもらう良い機会です。

 

ル・コルビジエ設計にある西洋美術館本館を世界遺産にという運動はどうなりますか。

 

馬渕 日本に一つしかないコルビジェの建物で、しかも国立西洋美術館のためにわざわざ設計したものです。そうした歴史的な意味合いも大きいし、日本の西洋美術の紹介がコルビジエと松方コレクションから始まったといっても言い過ぎではない、一つの大きなエポックだったと思います。この建物は日本の西洋美術紹介の、象徴的なシンボルですから。一旦申請を取り下げて、いまコルビジエ財団が再申請の準備中ですが、うまく認められれば有難いという思いです。

 

館長として是非実現したいという展覧会を挙げてください。

 

馬渕 私はここのところ20数年、ジャポニスムというテーマに取り組んでいます。その企画もありますが、女性美術家に焦点を当てた展覧会もやりたい。作品を見ただけでは女性美術家が描いたものかどうか分かりにくいですが、いろんな社会的条件をクリアして女性たちが活動した、芸術における女性たちの苦闘の跡があります。

 

ロダンの作品が当館には沢山ありますが、その愛人だった女性で彫刻家カミーユ・クローデル。彼女は精神を病んで後半生はずっと精神病院。ですが、クローデルを見ていますと、彼女は時々ロダンの先を走っている。ロダンが一方的にクローデルに影響を与えたというのは違うのではないか。クローデルがまず試み、それがロダンに影響を与えた面もある。他にも印象派の周辺でメアリー・カサットはドガと丁々発止で活躍しました。お互いに作家として刺激し合った。ベルト・モリゾもマネの弟子と言われますが、独立した芸術家としてマネとの交友の中で作品を描いた。そういう女性画家たちの軌跡を見せると女性たちに勇気を与えられるのではないか。

 

あとは美術史をテーマにした展覧会。分かり易いミケランジェロ、ラファエロとか作家単位ではなく、歴史を通してある一つものが変遷してゆくというような、美術家の名前に頼らないテーマの展覧会が当館なら開けるのではないか。モネとかロダンとかビッグネームでないと一般には分かりにくいかもしれませんが、美術は個人の力量だけでやってきたものではなく、社会の裾野の広がりの上にありますから。それができましたらいいなと思っています。

 

本日はお忙しいところありがとうございました。

「新美術新聞」2013年11月21日号(第1329号)3面より

【関連リンク】 国立西洋美術館

 


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