【日本橋】 われらの地平線 -いま・新たなる二紀展からの発信-

2012年09月05日 18:56 カテゴリ:二紀会

 

極北の到達点に向かう挑戦   南嶌宏(美術評論家、女子美術大学教授)

 

 

山本貞「光のある風景」

本年5月に東京都美術館で開催された、主要27公募団体の合同展ともいえる「公募団体ベストセレクション 美術2012」をはじめ、社会に向けて、公募団体の逆襲ともいえる活発な活動が注目を集めている。

 

それらは公募団体に属することの意味を、作家自らが問い直す場となるだけでなく、文化という視点から、公募団体の意味を再検証する兆候として受け止めることができる。

 

藪野健「町の門が開く」

今回の二紀会の「われらの地平線-いま・新たなる二紀展からの発信」も、そうした意識を背景とするアクションであり、公募団体の側から論争的な場を提起しようとする、その覚悟の表れといえるものである。

 

二紀会は熊谷守一、栗原信、黒田重太郎、田村孝之介、中川紀元、鍋井克之、正宗得三郎、宮本三郎らを同人に、昭和22年に創立された第二紀会に始まり、その後、名称を二紀会と改め、以後、主として戦後美術界の中核をなす団体のひとつとして発展し、多彩な美術家を輩出してきた。そして、その本懐は狭義の状況論に囚われず、つねに美術の根拠と、その表現者たらん人間との交感に生み出される、多様にして個性的な表現の可能性を追求する態度にあったといっていいだろう。

 

山本文彦「樹生」

奇しくも今回の展覧会のタイトルに使われた「地平線」。これは実体として存在せず、天と地という二者の、あるいはもっと複雑な世界をつなぐ、形而上的に広がる領域を指す言葉であるが、絵画のみならず、まさに美術の根拠が宿る不可視の場、二紀会の極北の到達点を暗示するものとして、重い意味を持つことになる。そして、それは山本貞、藪野健、山本文彦、滝純一、遠藤彰子、玉川信一、吉岡正人の、モチーフも表現法も異とする作品が、それぞれ此岸と彼岸をつなぐ、魔的な世界像となっていることとも無縁ではないはずだ。

 

遠藤彰子「佳日」

併せて二紀会の委員たち、その多くはそのまま現代の美術界にその存在感を示す作家たちであるが、彼らの作品を中心に構成される本展が、二紀会主張のひとつにある「情実を排しつつ、新人を抜擢し、これを積極的に世に送る」の真意と重なっていることも見落とすべきではないだろう。なぜなら、安楽に若手の可能性に将来を託すというような継承ではなく、若手が乗り越えるべき、極北の表現に向かう委員たちの不断の営為を突きつけることこそが、真の世代間闘争を生み、それが自ずと運動体としての、公募団体の力を増幅させるという、もうひとつの覚悟が秘められているからである。

 

北久美子「光る風」

二紀会の目指す極北の到達点に広がる地平線とはいかなるものか。そこに立ち上がる風景を楽しみに俟ちたいと思う。

 

【会期】 2012年9月5日(水)~11日(火)

【会場】 日本橋三越本店本館6階美術特選画廊(東京都中央区日本橋室町1-4-1)

☎03-3241-3311

【休廊】 無休 【料金】 無料

 

出品作家によるパネルディスカッション

9月8日(土)14:00~

 

南口清二「霞む風」

2012年第1回展出品作家

〈絵画〉

委員:山本貞 藪野健 山本文彦 立見榮男 佐々木信平 中西勝 井上護 遠藤彰子 北村真 滝純一 玉川信一 南口清二 難波平人 生駒泰充 今井充俊 小川巧 北久美子 木原正徳 清水聖策 松尾隆司 吉岡正人

会員:柏本龍太 日下部直起 佐田尚穂 内藤定壽 中村智恵美 野上洋子 松田俊哉

準会員:今林明子 株田昌彦 塩谷亮 立石真希子 田中章惠 濱田尚吾 平野良光 美浪恵利 村上伸栄

一般入選者:鈴木里菜 原田圭 星美加 渡辺香奈

〈彫刻〉

委員:日原公大 高橋勝 梶滋 遠藤幹彦 日野宏紀 横山徹

会員:田中茂  準会員:田中ショウ

 

「新美術新聞」2012年9月1日号(第1289号)1面より

 


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