【名古屋】 藤森兼明 祈りの美 イコン・彩飾写本とともに

2013年11月07日 13:57 カテゴリ:光風会

 

格調高い清雅なる祈りの世界

鈴木綾子(古川美術館学芸員)

 

「僧院の午後」 1984年 富山県蔵 

「僧院の午後」 1984年 富山県蔵

中世キリスト教美術と現代女性の肖像を組み合わせた作品は、日展や光風会展の会場で圧倒的な存在感を放つ。在住地、名古屋で開催される本展でも、“敬慕”を意味する“アドレーション”シリーズに取り囲まれた展示室に入ると、荘厳な空気に一気に惹き込まれる。藤森が敬慕し、巡礼を続けるビザンチン美術の聖堂。その聖堂内に入り、イコン(正教会の礼拝用の聖像)の深い輝きに包みこまれたような錯覚を覚える。会場では、藤森の創造の源泉であるイコン、彩飾写本も展覧している。いずれも藤森が畏敬の念を抱く美の極致であり、選び抜かれた色彩など藤森作品との共通点も多い。源泉である美に触れながら、藤森作品の崇高な美を堪能してもらいたい。

 

本展は、キリスト教徒である藤森が祈りをテーマとし始めた1980年代から現在までの軌跡を辿っている。金沢美術工芸大学で人物画の大家、高光一也に師事した藤森は、卒業後、画業中断を余儀なくされ、陶器を扱う輸出商社へ就職する。画業再開までの10数年のブランクは大きな転機となった。就職に伴う5年間のアメリカ滞在中、カトリック教徒となり、次第にビザンチン美術への憧れを強くする。その思いが作品へと結実するのは、藤森40代後半の「僧院の午後」頃からである。この時期、家族や裸婦といった女性像に挑戦しており、現在の理知的な女性像とは異なり、親しみやすさが感じられる。

 

「アドレーション・デミトリオス」 2004年 砺波市美術館蔵 

「アドレーション・デミトリオス」 2004年 砺波市美術館蔵

女性の背景となる壁画には聖母マリア、聖母子、天使が比較的多く登場する。生命の尊さを絵に込める藤森が、生命をつなぐ存在である女性に自己を投影していることとも関連がありそうだ。時を経た壁画や深い輝きを放つイコンを想起させる絵肌は、大理石や陶器の粉を絵具に混ぜた凹凸のある下地、1990年代からの金箔の効果的な使用によって生み出されている。

 

やがて、聖なるビザンチン美術と、限りある生命の象徴としての現代女性を対峙させた独自の様式美を完成させ、2001年からのアドレーションシリーズが始まる。「アドレーション・デミトリオス」はその代表作である。金箔を用いた重厚な背景は、古雅な輝きを放つように荒々しく、対する女性は写実的に精緻に描かれている。両者の間に時と空間の隔たりを感じさせながら、見事に調和させた格調高い清雅なる祈りの世界である。

 

【会期】 10月19日(土)~12月15日(日)

【会場】 古川美術館(愛知県名古屋市千種区池下町2-50)☎052-763-1991

【開館】 午前10時~午後5時(入館は閉館30分まで)

【休館】 月曜

【料金】 一般800円 高校生・大学生500円 小学生・中学生300円

【関連リンク】 古川美術館

 

「新美術新聞」2013年11月1日号(第1327号)1面より

 


関連記事

その他の記事