【三島】 赤堀尚展 赤の軌跡 〈招待券プレゼント〉

2013年04月15日 19:17 カテゴリ:最新の展覧会情報

 

「ミルクパンとコップ」2012年 油彩、キャンヴァス 146×112cm

「ミルクパンとコップ」2012年 油彩、キャンヴァス 146×112cm

若々しく大胆不敵

稀有な画家の根源を探る

 

宝木範義 (美術評論家)

 

 

赤堀尚展のサブタイトルは‘赤の軌跡’である。しばしば生命の燃焼にもたとえられる赤は、この画家の若々しい画面を律する基調色であり、85歳となった今日まで、夕焼け空として、静物画の背景として、また時には真っ赤な大地そのものとして、さまざまに作品を形作ってきた。

 

およそ日本人離れしたと言っていい大胆不敵な画面作りは、長い海外体験に裏打ちされたこの赤の手柄でもある。ポスターになった「モレーのひまわり畠」に、私たちは枯れて林立する不気味なひまわりと、その背後を染める赤々とした夕焼け空を見る。それはまるで、この地に咲いたひまわりの生のエネルギーのすべてが、真っ赤な夕焼け空に昇華された劇的空間でもあるかのようで、旧約聖書の一場面を見る心地さえする。

 

一昨年の夏の終わりのこと。筆者はトゥールーズを拠点に、周囲の山々に散在するロマネスクの古寺を訪ね歩いた。その帰り道、遅い夕陽が山の端にかかるころ、まさにこの絵のままに立ち枯れて、沈黙の淵に立ちすくむひまわり畠をいくつも車窓に見た。それは凄絶な情景であった。この絵に対する筆者の共感は、こうした個人的な視覚体験にも発している。

 

一転して、たとえば夏の終わりの風情を日本に求めたとしたら、おそらく白い穂をだしはじめたススキとか、一段と澄んで輪郭をくっきり見せ始めた月というような、古くから親しまれた主題が思い浮かぶにちがいない。仮にこう並べただけでも、彼我の感覚の差は歴然たるものがある。

 

「モレーのひまわり畠」1996年 油彩、キャンヴァス 23.8×40.8cm

「モレーのひまわり畠」1996年 油彩、キャンヴァス 23.8×40.8cm

 

油絵具を使うことでくくられる洋画の基底に、こうした視覚体験の差があり、それが洗練されつつ継承されて伝統となっているのだとすれば、日本でフランス絵画を理解することは容易ではない。フォーヴもキュビスムも、あの印象派さえ、日本人のやわな感覚の限界を超えたさきからスタートしているに違いないのである。

 

赤堀尚はこのことを充分に理解したうえで、自己の絵画を持続してきた、我が国では数少ない画家のひとりである。赤はその証なのだ。南フランスの輝く太陽のもとで、色彩が懐胎するまがまがしい力に遡及すべく筆を振るった日々。それは長い階段を一歩また一歩と昇ってゆく、孤独な努力の日々であったにしても、その気力こそが今日までの彼を支えた画業の根源であった。

 

今回の回顧展は、この意味で長い体験が実を結んだ近作を多く採り、この画家ならではの全体像がくっきりと浮かび上がる構成を目指した企画内容となっている。その点でも、フランス絵画の本質に通じて、今も若々しい画面を展開する稀有の存在に注目していただけるものと期待している。

 

「小雪舞うパリ」1968年 水彩・紙 20.5×27.0cm

「小雪舞うパリ」1968年 水彩、紙 20.5×27.0cm

【会期】 2013年4月19日(金)~5月19日(日)

【会場】 佐野美術館(静岡県三島市中田町1-43)☎055-975-7278

【休館】 木曜 【開館時間】 10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)

【料金】 一般・大学生1000円 小・中・高校生500円

【関連リンク】 佐野美術館

 

対談「85歳の青年画家」

2013年4月27日(土) 14:00~16:00

【対談者】 赤堀尚、渡邉妙子(同館館長)

【会場】 佐野美術館講堂

 

講演会「色彩の力 赤堀尚の風景と静物」

2013年5月11日(土) 14:00~16:00

【講師】 宝木範義(美術評論家)

【会場】 佐野美術館講堂

 

※ 対談、講演会とも要申込、先着60名。聴講料500円。申込は同館まで。

 

「新美術新聞」2013年4月21日号(第1310号)1面より

 

〈招待券プレゼント〉

同展の招待券を、5組10名様にプレゼントいたします。

メールのタイトルに「赤堀尚展 招待券プレゼント」とご記入の上、①郵便番号②住所③氏名④年齢⑤職業⑥当サイトへのご意見 を以下のメールアドレスまでお送りください。

present@art-news.co.jp

締切 4月25日必着

※応募多数の際は抽選とさせていただきます。なお当選者の発表は、発送をもってかえさせていただきます。

 

【関連記事】 エッセイ:自然と芸術 赤堀尚

 


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