【銀座】 文化勲章受章者 十代 大樋長左衛門展

2013年02月25日 11:33 カテゴリ:日展

 

十代大樋長左衛門 撮影:伊藤ゆうじ

―明日とむきあう・陶絵(すええ)と墨絵の世界―

 

 

 

一昨年に文化勲章を受章した十代大樋長左衛門(1927年生まれ、文化功労者、日本藝術院会員、日展顧問、現代工芸美術家協会理事長)の和光では5年ぶりの個展が開催される。金沢の地で350年にわたり茶の湯に供する大樋焼を継承し、日展では鑑賞芸術としての作品を発表し続ける。鳥や動物を軽妙洒脱に表現した陶絵や墨絵を中心に、自選の茶盌など約100点の展観。出品作や作陶の思いをお聞きした。

 

 

 

 

 

―サブタイトル「明日とむきあう・陶絵と墨絵の世界」に込めた思いとは

 

大樋 和光さんでは4回目の個展となります。茶盌を中心としたものは他にも行っていますので、今回は陶絵や墨絵の世界、花入れや御皿など、さらに自選による「茶盌10選」を加えた100点ほどを出品します。そのなかで、鶴首とよばれる首の長い花入れには少し捻りを加えたり、鳥や花紋をあしらったり、陶絵には○△□などバウハウス様式の線や面による抽象紋様を組み合せたり、あるいは粘土に指を押しつけて指型を入れてみたりと、今の私なりの感性、ポリシーで表現したものです。時代や生活様式の変化のなかで大作ではなく、小品が中心となりますが、粘土には主に黒土を使いました。

 

陶絵「馬と童」 33.5×33.5cm

―茶の湯の世界観である「侘・寂」と、作家としての現代観については

 

大樋 日本は余所からものが入ってくるが、出て行くものは少ない。分かり易く言うと「じわじわと推移してきた」と言える訳です。私は金属の金味というものが好きで、鋳物であり板金であり、手で触った感じ、つまり酸化していく様が好きなんです。水を入れれば必ず金属は錆び、放置しておくと錆は大きくなる。ボロボロでなく、綺麗に金属を保存していくと必ず金味というものが出て来る。それは時代によって非常によい魅力を発散しているということなんです。日本人の感性には、そういう金味の良さというものが多くは定着していて、特に日本人は「銀化」したもの、中国人は「金化」したものが好きですね。つまり、日本人というのは今でもそういう美意識を引っ張っているんです。

 

そのなかで、「今」とはなんなのか、ということも考えなければならない。つまり現代アートと呼ばれるものが、デッサン力があろうがなかろうが、色彩感覚があろうがなかろうが、関係なくどんどん出てきている。「今」とはそういう時代を迎えたということなんです。ですが、私は金属の金味や根来の漆の剥げたものなどが好きですし、そういうものを美意識と感じた日本人は他の民族にはないと思っています。ですから「侘・寂」の原点といえばそのようなもので、「滅び行く無くなるもの」に待ったをかけた美意識なんです。

 

 

墨絵「昇龍」 60.5×49.5cm

陶絵「仲よし」 40.5×40.5cm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただそれは「美しいもの」ではあるが、私はその美意識を自作のなかに引っ張る意識はもうとうなく、つまりは「伝統や革新」ということよりも「今の生き様として、今を歩み続ける」ということで、結果として良いものをつくれば次世代に参考品として残っていくということでしょうね。ですから、ものをつくるということは、責任をもって堂堂とつくるということなんです。

 

―まもなく東日本大震災から2年を迎えますが現状への思いとは

 

大樋 自然からこれほど大きな影響を受けたことがないなかで、いまだに瓦礫が残っている、除染が遅れている、という現状を一日でも早く、国を挙げて回復しなければならない。そうすることにより、日本の力は凄いと海外にアピール出来る訳です。経済が低迷しているなかで、畑で言えば栄養のない土では芽はでません。もっと頭脳的に、そして次世代に先送りするのではなく、今生きている人がやらなければならないと思います。

 

 

大樋窯

―ライフワークである干支シリーズ、これからの作陶への思いは

 

大樋 私の一番好きな絵描きさんに、武者小路実篤さんがいます。小さい頃から好きで、初めて買った色紙には「水仙ふたつ ともに咲くよろこび」と書いてありました。今の流行言葉に皆さんが感心されているように、私もそういう言葉に感心していたんです。「天に星、地に花、人に愛」など思いつきが全部、字と絵になっていたんです。カボチャやジャガイモを描いても実に面白く、本当に触ってみたくなる感じがするんです。ですから素晴らしいということ、良いということが何か、ということなんです。

 

日展では毎年干支の紋様をあしらった作品を発表していますが、あと三つで十二支となります。どれもこれも落ちこぼれがないよう、いろいろなものを頭に入れて、その時その時の私なりの決断の表現です。工芸は常にいろいろな素材が入ってきているので、進歩発展があるのです。変化の時代を迎えているなかで、現代アートにしても、これからどんどん変わるでしょう。コンピューターで作画している若い人もいますが、人間は生きている証として、最終的には頭脳と手、つまり人格でしょうね。私はそういう気がします。

 

―個展のご成功をお祈り致します。本日はお忙しいなか有難うございました。

 

 

青釉「巳」彫大壺 35.5×H40.8cm

大樋黒陶鳥紋花入 12.0×H27.2cm(左) 大樋緑釉鳥紋花入 14.5×H32.7cm(右)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【会期】2013年3月2日(土)~11日(月)

【会場】 和光本館6階 和光ホール(東京都中央区銀座4-5-11)

☎03-3562-2111

【開廊時間】 10:30~19:00 (最終日は17:00まで)

【休廊】 無休 【料金】 無料

【関連リンク】

和光

大樋美術館

 

<作家によるギャラリートーク> 3月3日(日)14:00~

 

 「新美術新聞」2013年3月1日号(第1305号)1面より

 


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