平成の書  1989-2019 次代への架け橋


挨拶-井茂圭洞
 本年5月1日、新天皇即位にともない改元が行われ、「平成」が終わります。4月には新元号が発表されるともいう今、美術年鑑社代表の油井氏より、平成30年間の書道の歩みをまとめる『平成の書』という書籍を刊行したいとのご挨拶がありました。
 書道界としても、昭和からの豊かな遺産を引き継ぎ発展させて来た平成時代の実績が、形として残ることは大変に意義のあることだと考えます。多くの書家、作品が一冊にまとまることで、次代へのステップにもなると大いに期待し、出版に賛同いたしました。
 平成は、書道文化のユネスコ無形文化遺産登録を目指し、多くの方々のお力添えとともに書道界が一丸となって動き出した時代でもあります。「書の普及」という目的からも、次代への架け橋となった点が記録され、広く記憶されることを望みます。
 書道界の皆様にも、この一時代をまとめる『平成の書』の出版意義をご理解いただき、ご協力をお願いしたいと思います。
 
 平成31年3月
署名


挨拶-油井一人
 まもなく、平成時代が終わりを告げようとしています。ベルリンの壁の崩壊に始まり、湾岸戦争、ソビエト連邦崩壊、アメリカ同時多発テロなど、世界が大きく揺れ動いた30年。
 我が国は幸いにも平和を保てましたが、阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめ未曾有の自然災害が頻発いたしました。またバブル崩壊、それに続く経済の冷え込み、少子高齢化といった、戦後右肩上がりの成長を続けてきた昭和日本が、成長から成熟というステージへ立ち位置を変えた30年でもありました。
 翻って、書をとりまくこの30年の状況とは──。 戦後、昭和の巨匠たちが綺羅星のごとく登場し、個性豊かな表現を展開しました。実用から一線を画したアートという概念の誕生でした。書における平成時代とは、社会情勢と軌を一に、それら巨匠の書業を引き継ぎ、洗練、深化、成熟させてきた時代ともいえましょう。
 一方で、近年のITの進歩は著しく、インターネットによって世界がつながり、ビジネスはもちろん、日常のあらゆる場面で情報が瞬時にかけめぐる時代が到来しました。文字や言葉は、もはや書くものではなくなり、パソコンのキーボードから打ち出されるものへと劇的に姿を変えたのです。書を支える背景が激変するなか、これからの書のありようを模索しつつ、未来へ書文化をつなぐための取組みも、書壇一丸となって具体化が進みつつあります。
 書文化という遺産を引き継ぎ、次世代へ継承するという大きな命題を念頭に、個々の表現に取り組んだ平成の書をここに一覧し、記録としたいと思います。
 
 平成31年3月




構成特色
作品篇
◉平成を生きた巨匠たち、その業績を精選
文化勲章受章者、文化功労者、日本藝術院賞受賞者や、各書道団体の中心で活躍した書家たちの業績を紹介します。制作意図や作品の魅力を伝えるテキストとともに、カラー図版を収録。
 
◎物故名作選:巨匠たちの一作〈平成編〉
掲載予定作家リストPDF
◎受章・受賞:文化勲章・文化功労者・日本藝術院・日展特選など
 
◎現存作家:平成を代表する巨匠たち/歴史を継承し、深化を担った書家たち/継承者—次代を担う


論文・資料篇
◉美術・書道界を代表する執筆陣が迫る、書の現在と未来
高階秀爾(文化勲章受章、大原美術館館長)
島谷弘幸(九州国立博物館館長)
西嶋慎一(成田山書道美術館顧問)
田宮文平(書評論家)
髙橋利郎(大東文化大学教授)
 
◉ユネスコ無形文化遺産登録に向けた活動
2015(平成27)年に日本書道ユネスコ登録推進協議会が発足し、〝日本の書道文化〟の登録に向けた歩みが始まりました。書道界が一丸となりのぞむ、活動の軌跡をたどります。