[現在通信 From NEW YORK] : 篠原ポップス! =富井玲子

2012年10月17日 17:41 カテゴリ:エッセイ

 

篠原ポップス!

 

富井玲子

 

 

ニューヨーク州立大学ニューパルツ校付属ドースキー美術館で《篠原ポップス!前衛の道、東京・NY》展が開催されている(会期は2012年12月16日まで)。

 

神戸大学准教授の池上裕子と筆者の共同企画。出品数70点弱だが、1958年にデビューした篠原有司男の50年余を回顧する試みだ。

 

《モーターサイクル花魁かんざし》とポーズする篠原有司男 撮影=筆者

 

篠原といえば、1961年に毎日グラフで取材した大江健三郎に「無茶苦茶」と言わしめたほどの豪快なアクションが印象に強い。90年代に再開した《ボクシング・ペインティング》も、その延長線上で人気が高い。

 

しかし、本当にそれだけなのだろうか。

 
たとえば、本展のシンデレラ、88年制作の《モーターサイクル花魁かんざし》。スタジオで灰かむりしていたが、埃をぬぐったら、あっと驚くような美形が出現。ダンボールの細片を華麗に結い上げた髪、アクリル成型の簪(かんざし)や笄(こうがい)、自家製プラスチックタイルをモザイクしたヌードボディや赤のブーツ。もちろんオートバイはダンボールで細部まで丹念に作りこまれている。
 
こういう作品は「ダダっ子」の「無茶苦茶」では不可能だ。むしろ、私たちの先入観に反して、篠原は本来的に「創る人」ではないのか。ならば、作家が「何を」そして「いかに」創ったのか。その展開を解明するのが本展の目的となった。
 
一見雑多な作品展開も、イメージ・メーキングを軸に、初期作品から《ボクシング・ペインティング》《イミテーション・アート》《花魁》《オートバイ彫刻》のシリーズ、そして渡米して新機軸を開いた《オートバイ彫刻》や多彩なドローイング、ひいては近作の《ギュウちゃん蛙》連作まで、一つの有機的な展開が見えてくる。
 
池上の分析によると、篠原のイメージ・メーキング戦略は、美術史やポピュラー文化から縦横にアプロプリエーション(借用)したモチーフを換骨奪胎して、自前の図像に仕立てあげ、「文化の衝突」を内包した破天荒なストーリーをつむぎだす。
 
浮世絵から発想して篠原独自のアイコンとなった「花魁」が、アメリカ版暴走族のオートバイにまたがり、アイスクリームをベロリと嘗める本展シンデレラなどはその代表。
 
篠原作品の中で独立した表現世界を構成するドローイングでも、唐傘のお化けがスーパーマンと対決したり、ワンダーウーマンが女侍に変身するなど、イメージ・メーキングのパワーが全開して、筆者のいう「ヤンキー・ジャポニカ」が現出している。 テクニックも多彩。内科画廊旧蔵の《花魁》小品に見られるように、プラスチック板や蛍光塗料を導入したり、ドローイングにも様々な素材がコラージュされていて、一つ一つの作品に変化がある。
 
また、ボクシングも一本調子ではない。60年代には反芸術の精神を体現して「アクション」が作品そのものだった。しかし、近年は「アクション」と「絵画」が融合、色彩も加味して絵画作品として成熟してきた、というのが管見である。
 
128頁のカタログはニューヨーク州立大学出版会から10月に刊行される。
 
 

展示風景。手前は《ボクシング・ペインター》、右壁に内科画廊旧蔵や東京画廊蔵の《花魁》小品が見える。 撮影=筆者

     

 

「新美術新聞」2012年10月1日号(第1292号)3面より

 

【関連リンク】 Shinohara Pops! (ブログ)

 

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