富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] :トム・サックスのお茶会

2016年05月30日 11:00 カテゴリ:エッセイ

 

 

トム・サックスといえば、1999年にメアリー・ブーン画廊でお手製オブジェの銃を展示した際、実物の9ミリ弾の弾薬筒を来場者におみやげとして提供、画廊主が警察に逮捕された事件が有名だ。

 

現代アートでも有数のトンデモナイ系の作家である。その人気のほどは、現在開催中の大型ラジカセをテーマにした「ブーンボックス回顧展」(ブルックリン美術館)やブランクーシの彫刻に発想した「ナゲット」展(ダイチ・プロジェクト)にもあらわれている(8/14、6/14まで)。

 

そのサックスがノグチ美術館でTea Ceremony、つまりは「お茶会」なる個展すると聞いて食指が動いた。さっそくホームページを調べたら、なんと会期中(7/24まで)にはサックスが亭主でお手前のパフォーマンスも用意されている。ネットで申し込むと招待客になる可能性もあるというから、手続きをした。驚いたのは、サックスのビデオ作品3点をオンライン(www.tenbullets.com)で見ることが参加資格で、申込書には「指定のビデオ作品を見ました」と宣誓する箇所まで設けられている。

 

注文の多い料理店みたいだ、と思いつつビデオを見ると、たとえば《10ヶ条》は、サックスのスタジオで働くスタッフの従うべき規則を詳細に紹介。ユーモアたっぷりだが、こういうコントロール・フリーク(管理の鬼)が主催するお茶会はどんなものかと、戦々恐々たる気分にさせられる。

 

申し込んだのは4月下旬の土曜日。2回目のパフォーマンスにあたる。展覧会としての「お茶会」は、ノグチ美術館の1階、コンクリート床の広々としたスペースに四畳半の茶室のみならず(もちろん水屋つき)、露地に入る門から、錦鯉の泳ぐ池(というか小プールの趣き)、手水鉢に石灯籠、待合に盆栽(?)もあり、飛び石まで配したインスタレーションレーション。すべてサックスの制作だ。合板や路上建築資材などチープな素材を使っているが、箒やモップの柄を使って門を構成するなどウイットに富んだ趣向も楽しい。しかも、門には合板製の結界の石まで完備する超勉強ぶり。全体の印象はファンキー、とても詫び寂びの世界ではないが、日常のオブジェや素材を縦横に駆使したサックスの戦略は、そもそもの利休の茶の精神に一脈通じる。とすれば、これはタダモノではない!

 

 

あいにくと、お手前パフォーマンスのほうは選にもれてしまったが、かぶりつき席に陣取っての鑑賞。

 

本物の清酒をお手製の酒器からそそぎ、ピーナツバター添クラッカーを肴にしたもてなしに始まり、オレオクッキーの主菓子、PEZキャンディーの干菓子でいただく薄茶は、特製モーター付茶筅を使っている。最後は釘や鋲を使ったゲームで打ち止め。堅苦しいことは考えないで、雰囲気を楽しんで、という作家の姿勢は、これも茶道の真髄にちがいない。

 

会場では、これを見てもっと茶道を知りたくなった、との感想を小耳にはさんだ。なるほど、こんな「日本入門」もあるわけだ。

 

 

 

 

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