荒井経(東京藝大大学院准教授):福島県飯舘村・山津見神社オオカミ絵の復元と継承

2016年05月19日 11:02 カテゴリ:エッセイ

 

 

子育てをするオオカミ、草むらで眠るオオカミ、月に向かって吠えるオオカミ…。福島県相馬郡飯舘村の山津見神社は、全国でも珍しいオオカミ信仰を受け継ぐ神社で、明治37年に描かれた237枚ものオオカミ絵が格天井に納められていた。ところが、3年前の火災でオオカミ絵は全て焼失してしまった。東京藝術大学保存修復日本画研究室では大学院生ら26名が、火災直前の写真を参考に10か月間をかけてオオカミ絵の模写を完成させた。

 

火災に遭った絵画を模写でよみがえらせた例としては、昭和42~43年に描かれた法隆寺金堂壁画の再現模写が広く知られている。金堂壁画の再現模写は、古色、剥落、変色までも再現する精密な手法で描かれたが、オオカミ絵の模写には、図像の正確さを重視する再現模写ではなく、筆遣いという“行為”の再現を重視する「臨模」の手法を選んだ。大震災と原発事故からの復興を背景にしたオオカミ絵の模写は、失われた過去の再現よりも飯舘村の未来に向けた文化の継承を目的にするべきと考えたからだ。大学院生たちは、明治時代の筆遣いを何度も練習して全てのオオカミ絵を描き切った。

 

オオカミ絵を臨模する大学院生たち(平成27年8月20日)

 

10か月をかけて完成した237枚のオオカミ絵

 

平成に描かれたオオカミ絵は、100年後の飯舘の人々にとっても決して古い文化財ではないが、復元に関わるエピソードを残すだろう。100年前に未曾有の大地震があったこと、原子力発電所で事故があったこと、避難区域となっていた山津見神社で不幸な火災があったこと。そして、東京藝術大学の若者たちによってオオカミ絵が再び描かれたこと。すべてが100年後の村民にとってはるか昔の出来事となり、こんにち描かれたオオカミ絵からそれらの出来事が繙かれるときがやって来ることを願ってやまない。

 

新しいオオカミ絵は、帰村宣言が待たれている平成29年春までには山津見神社に奉納される予定である。

(東京藝術大学大学院 准教授)

 

【名称】よみがえるオオカミ 飯舘村山津見神社・復元天井絵

【会期】2016年5月28日(土)~7月3日(日)

【会場】福島県立美術館(福島市森合字西養山1番地)

【TEL】024-531-5511

【休館】月曜

【料金】一般・大学生270円、高校生以下無料

【関連リンク】福島県立美術館 山津見神社オオカミ天井絵復元プロジェクト

 

 


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