富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : ロバート・バリー ―日記風に

2015年04月05日 10:00 カテゴリ:コラム

 

ロバート・バリー ―日記風に

 

 

1月26日―

e-flux系列のArt & Educationから今日の配信。2月6日にハンターカレッジの付属ギャラリーでロバート・バリーの回顧展「僕の知っているもの全部・・・」がオープンだという。バリーは60年代概念芸術では珍しい不可視派(4月4日まで)。

 

不燃ガスや電磁波を使い、テレパシーまで使ったというので先鋭だというのが欧米での評価。観念で勝負した日本の松澤宥に比べれば児戯に見えるのだが、西洋合理主義の中では地味ながら注目を集める存在ではある。

 

2月10日―

極寒の中、バリーを見に行く。バリーはハンターカレッジの卒業生。抽象表現主義のロバート・マザーウェルや美術史家のウイリアム・ルービンなどに学び、同校で教職についた。

 

なるほど、出発点となる60年代半ばの作品はミニマル。フォーマリズムでありながら、格子の束縛から抜けようとする志向が見出せる。こういう作家の出自を知るのは大切だ。

 

くだんの《テレパシー・ピース》を確認して、ムニューチン画廊の白髪一雄個展オープンのパーティに向かう。こちらは正反対に圧巻の物量作戦。

 

69年の《テレパシー・ピース》は、とあるグループ展の会期中に作家がテレパシーでイメージでも言葉でもない作品をコミュニケーションする、という単純なもの。そら、あかんわ、と思う。超能力の何たるかを知らずして、作品に使えるわけがない。

 

 

3月4日―

チェルシーのボルトラミ画廊の「ザ・ラジアント」展のパーティに行く。荒川医が主宰するグリーンティー・ギャラリー・ワールドワイドとの共催。企画はジェーコブ・キングとやはり荒川主宰のユナイテッド・ブラザーズの企画(3月28日まで)。

 

福島原発事故の4周年を記念した展観。内容的には、Chim↑Pom、渋く池田龍雄、目新しいところで小林エリカなどが日本から。

 

入り口すぐにバリーの1969年作品《0.5マイクロキュリーの放射能インスタレーションレーション》。半減期10.51年のバリウム133同位体のカプセルをセントラル・パークの2ヶ所に埋めた、というテキストと写真の作品。ミニマルでリテラルな作風。BarryだからBariumなのか、などと思ってしまう。

 

荒川の出品は、福島第一を模した電気行灯。壊れた建屋の空模様を配した竹紙細工。あれが事故のあった発電所だというのは、アメリカ人には見ただけでは分からないだろう。

 

 

 

3月11日―

ハンターカレッジまでバリーのトークを聞きに行く。e-fluxもArt & Educationも配信情報は役に立つ。

 

展示作品をスライドで見せながらの解説。どういうわけか、《テレパシー・ピース》は割愛だったので、質疑応答で質問。57丁目の画廊ビルにテレパシー財団というのがあり、そこの図書室に行ったことがあるという。この分野は自分の作品に使えるのでは、と思ったらしい。フランクリン・ファーニスで、公開でテレパシーでの作品伝達を試みたこともある、と笑いながら教えてくれた。実験としては不発弾だったのだろう、というのが私の感想だ。

(富井玲子)

 


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