『現代の眼』のこれまでとこれから : 大谷省吾

2013年08月03日 13:55 カテゴリ:エッセイ

 

六〇〇号を迎えた東京国立近代美術館ニュース『現代の眼』

デザイン一新、PDF版をHPで公開

大谷省吾(東京国立近代美術館主任研究員)

 

 

『現代の眼』創刊号と600号、『美術家たちの証言』

『現代の眼』創刊号と600号、『美術家たちの証言』

昨年、開館六〇周年を迎えた東京国立近代美術館だが、今年は6月に、美術館ニュース『現代の眼』が創刊六〇〇号を数えるに至った。このニュースは1954年12月に創刊し、以来、その時々の展覧会に関連した記事、所蔵品の紹介、学術研究、作家によるエッセイなど、さまざまなコンテンツを盛り込んできた。創刊号のページをめくると、前田青邨の談話記事が掲載されている。第2号では高村光太郎、第3号では安井曾太郎と、今となっては歴史的存在となった芸術家たちの息づかいが感じ取れる紙面になっている。そのほかにも、例えば第42号「名作のモデル」特集では、黒田清輝《湖畔》のモデルを務めたときの思い出を、照子夫人が語ってくれたり、岸田劉生の娘麗子が父を回想したりするなど、興味深い記事で満ちている。こうした、これまでのよりすぐりの記事を集めたアンソロジー『美術家たちの証言』を、昨年美術出版社より刊行したので、ぜひご一読いただきたい。

 

さて、当初はモノクロ8ページの月刊でスタートし、その後1996年4月より部分カラー16ページの隔月刊へと移行した『現代の眼』は、この六〇〇号を機に、さらに新たな一歩を踏み出した。今の時代、展覧会やイヴェントの情報は、誰もがインターネットを通して入手するだろう。だとすれば、隔月刊の紙媒体では、速報性よりも読み物としての魅力に比重を置いたほうがよいのではないか。そして昨年刊行したアンソロジーがまさにそうであったように、一号ごとの積み重ねが、時代の証言となっていくのではないかと考えられるのである。そこで、新たに展覧会のレビューや、新収蔵作品の紹介などのコンテンツを加えることにした。またオールカラー化、読みやすいレイアウトなど、デザインも一新した。

 

そしてもうひとつ、新たな試みとして、紙媒体としての発行と同時に、PDF版を美術館のホームページに掲載することにした。これまで『現代の眼』は東京国立近代美術館ミュージアムショップでしか販売していなかったため、読者数はごく限られており、定期購読者もやや高齢化していたが、このオンライン化によって多くの方々に読んでいただけるのではないかと期待している。オンライン版では著作権の関係で掲載できない図版もあるが、まずはこの『現代の眼』の存在を知っていただくことが先決である。そして興味を持っていただけたら、ぜひ紙媒体も手にしていただきたい。日々、進化していく情報テクノロジーの時代だからこそ、電子媒体と紙媒体のそれぞれの長所を活かしながら、美術館をとりまくさまざまな情報を発信していければと思う。

 

『現代の眼』350円(税込):同館ミュージアムショップにて販売

【問合せ】 東京国立近代美術館 ☎03-3214-2561

 

「新美術新聞」2013年8月1・11日号(第1319号)2面より

 


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