[フェイス21世紀]:張 媛媛〈画家〉

2022年02月04日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”水魚の交わり”

 

横浜国立大学赤木範陸研究室にて 12月21日撮影

横浜国立大学赤木範陸研究室にて 12月21日撮影

 

「先生との出会いは運命。先生と会っていなければ、私は絵画を辞めていたと思います」

 

張は自らの半生をこう振り返る。

 

中国の武将・劉備はかつて諸葛亮との関係を水と魚に喩えたが、張が欠けがえのない師を得たのは故郷から遠く離れた日本でのことだった。

 

張には理想とする絵画がある。宋代の山水画だ。目には見えない大気や水が織りなす幽玄の世界は、千以上の湖を有する故郷・湖北省の風景を思わせた。高校卒業後は港町・大連の美術学校に進学。その後一旦就職するが、画家への道を諦めきれず、美術を学びなおすため日本へ向かった。「満州国の領土だった大連には日本の面影が色濃く残っていて、親近感を感じました」

 

(左)《波乗り猫》 (右)《藤》

(左)《波乗り猫》 (右)《藤》

 

来日した張に、今後の人生を決定づける転機が訪れる。洋画家・赤木範陸との出会いだ。赤木が駆使する画法は古代ローマ期に用いられた”エンカウスティーク”。着色した蜜蝋を用いるのが一般的だが、赤木は蜜蝋をそのまま用いることで陰影と透明感を表現する。「はじめて先生の絵を見たときは衝撃を受けました。この画法を使えば宋の山水画のような表現ができるのではないかと」

 

横国の赤木研究室へと進んだ張は、テンペラと油彩による混合技法を通じて宋の院体画を研究。エンカウスティークに取り組むようになったのはその後藝大の大学院へと進み、そこで赤木の集中講義を受けてからだ。この技法を自身の絵で応用したい、張は再び横国を訪れ、想いを伝えた。その熱意に、赤木も本気ならばと迎え入れてくれ、張は本格的にエンカウスティークの世界へとのめり込んでいった。

 

蜜蝋を焼き付けていく

蜜蝋を焼き付けていく

 

赤木が編み出した技法を継承しているのは、張ただ一人。現在は作品の制作に加えて日本人留学生の支援などにも力を入れている。「日本に来てから目に見えない〝縁〟に恵まれました。少しずつこの恩を返していければと思っています」

(取材:柴田悠)

 

《トト曼荼羅》2019年 162.1×130.3cm 麻布にエンカウスティーク、岩絵具

《トト曼荼羅》2019年 162.1×130.3cm 麻布にエンカウスティーク、岩絵具 「第37回上野の森美術館大賞展」上野の森美術館絵画大賞

 

金箔もまた、張の絵画世界に不可欠な要素

金箔もまた、張の絵画世界に不可欠な要素

 

.

張 媛媛(Zhang Yuan Yuan)

 

1984年中国・湖北省生まれ。2007年大連大学美術科卒業。横浜国立大学大学院で赤木範陸に師事した後、19年に東京藝術大学大学院を修了。修了作品展ではメトロ文化財団賞を受賞し、同年の「第37回上野の森美術館大賞展」で大賞を受賞。20年に、銀座のギャラリー上田にて個展「張媛媛展―縁起もの、円来ものづくし―」、21年には永井画廊にて「赤木範陸(瓊血)・張媛媛 師弟展―エンカウスティーク未来への継承―」を開催。

 


関連記事

その他の記事