[フェイス21世紀]:全 民玉〈画家〉

2021年11月25日 14:00 カテゴリ:コラム

”この世界を掬う”

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東京都内のアトリエにて 11月2日撮影

 

「対象を見ているようできちんと見ていない。よく観察すればそこにすべての答えがある」
美術予備校で全民玉の作品を目にした講師は、こう指摘した。全はこの言葉をしばらく自分の中で反芻することになる。
 

幼い頃は持病の喘息の影響もあり、自宅で過ごす時間が多かった。目の前に紙が置かれていれば、いつまでも絵を描いてしまう。小学校で出会った図工の先生は、黙々と手を動かし続ける全の様子を見て、創作用の紙をそっと手渡した。課題を出すだけではなく声をかけてくれた先生の気遣いが、とても嬉しかった。 

 

しかし、高校に進学すると、周囲と比べて将来の自分はいったい何が出来るのか悩み始める。そんな娘を見かねた父親は、「美術を本格的に学んでみたら」と予備校へと手を引いた。アトリエの門を開くとそこにはモチーフが並び、ひたすら絵に向かう受験生たちのイーゼルがひしめき合っていた。同じモチーフでも描き方が違う。ルールに縛られることがない油絵の道に進もう。迷いは吹っ切れた。

 

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(左)《雲隠れ》2019年 91×116.7cm 油彩、パネル(右)《雲隠れ》2019年 116.7×91㎝ 油彩、パネル

 

だが、冒頭の講師の指摘がうまく消化できない。しばらく試行錯誤が続いていたある日、そっと対象をぼかして描いてみた。すると、ようやく物の全体感や空間性を客観的に見られる感覚が、キャンバスに広がった。全は絵画のみならず、世の中で起こるすべてにおいて、部分的に注視すると物事の背景にある本質が見えてこないと気づいた。それから現在まで一貫して、見ることの意識やものの見え方を自分の制作テーマに定めている。

 

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《不確かな世界-流れ星-》2020年 91×116.7cm アクリル、油彩、パネル

 

近年は、鑑賞者と様々なイメージの対話が生まれるよう、抽象的な風景の中に折り紙のオブジェを登場させた。作家の手で折られた星たちは、先行きが見えないこの時代に人々の心に向かって浮遊し、静かに光り続けている。

(取材:岩田ゆず子)

 

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来年5月に開催する個展に向けて制作中。ガラス瓶に折り紙の星が入った構図を描く。

 

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作品に登場する折り紙は、作家自身の手で折っている。

 

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全 民玉(Choun Minok)

 

1980年東京都生まれ、2008年東京藝術大学大学院美術研究科修了、修了制作帝京大学買上。14年 新生絵画賞展優秀賞、19年第2回枕崎国際芸術賞展大賞、20年第1回三越伊勢丹・千住博日本画大賞展大賞受賞。08年谷門美術にて初個展、16、18、21年に新生堂で個展。グループ展多数。2022年5月11日〜16日日本橋三越本店にて個展「全民玉展 世界の見え方」開催予定。

 
全 民玉 ウェブサイト


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