[通信アジア]MANGA 都市 TOKYO展:青木保

2021年01月21日 13:00 カテゴリ:コラム

 

国立新美術館で2020年8月12日から11月3日まで行われた展覧会「MANGA 都市 TOKYO」は実に巧みに工夫され、MANGAが描き出す都市の多層多面と東京という都市の持つ総合性とがうまく組み合わされ、見る者に深い感銘を与えた。マンガの表現力の素晴らしさを改めて感じさせるものであった。

 

実はこの展覧会、18年の11月から12月にかけてパリでの日本文化年、ジャポニスム2018のために企画された「MANGA⇔TOKYO」の、いわば凱旋展覧会なのである。

 

パリのラ・ヴィレットで開催された展覧会に関しては以前の「通信アジア」でも報告したことがあったが、何しろ展示スペースが3500㎡と広く、加えて建物の入口から展示場へ入っていくのが導入部となる、素敵な造りとなっていた。まるで別世界に入っていくような気持ちになって進むと広大な展示場が急に開けて、巨大な東京の模型とその上にある巨大スクリーンに映し出されるゴジラの方向に度肝を抜かれる。

 

これには流石のパリっ子も驚いたらしい。開会の日に会った館長が、できれば翌年4,5ヵ月空けるからこの展覧会を開いてほしいと言ったほどであった。最初に挨拶に行った時には、マンガ展か、といった反応だったのだが、実際に展示を目の当たりにして、これはと感銘を受けたに違いない。

 

パリ展と比べると国立新美術館での展示は会場も約半分の大きさであるし、とてもパリ展のようなダイナミズムはなく、東京の模型も半分くらいの規模でしかなかったが、マンガ・アニメと東京の関係を如実に活き活きと伝える展示としては実によくまとまり、しかもアートの持てる表現力を見事に発揮する展覧会となっていた。

 

ご覧になった方もいらっしゃるかと思うが、全体は3セクションに分かれ、セクション1は「破壊と復興の反復」と題され、この都市が震災や火災、戦災に襲われてきた、世界でも稀有の大都市であることがマンガ・アニメにもしっかりと表現されていることがよく分かる。このセクションだけでも都に居住してコロナ禍に喘ぐ我々にとって貴重である。「AKIRA」「火要鎮」、それに特撮のゴジラ7などなど、「帝都物語」もある。参考資料として帝都大震災火災系統地図までが展示されていた。

 

セクション2は「東京の日常」である。これも盛りだくさんな優れた作品によってこの都市の実態を逆に浮かび上がらせており感心した。ここでは触れる余裕は無いが、「愛と炎」「孤独のグルメ」「『坊ちゃん』の時代」「あしたのジョー」「君の名は」「サクラ大戦」など有名マンガ・アニメ・ゲームの展示が続く。参考資料に《江都名所 吉原桜之図》があったのはさすが。

 

セクション3は「キャラクターVS都市」で、インスタレーションとして電車と「ラブライブ!」、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や「機動戦士ガンダム」、それに映像展示として「初音ミク」など。全体として東京の過去と現在、そして未来を表現するまたとない現代アートの前衛としてのマンガ・アニメ・ゲームの表現力をフルに示した展覧会である。

 

この展示全体を都内どこかに常設展示できないか。オリンピック・パラリンピックと言わず今や世界中から多くの人が押し寄せる大観光都市・東京のまさに目玉となる文化資源なのである。関係者の熟考を望む。

 

この展覧会、パリと東京の展示デザイン全てを取り仕切ったのは森川嘉一郎明治大学准教授であり、マンガオタクであると同時に建築家である森川氏の偉大なる才能によって、日本が誇る文化であるマンガ・アニメ・ゲームの画期的な展覧会になったことは特記されるべきである。

 

また美術館内部から作品選定や煩雑な事務仕事を成功裏に行った真住貴子国立新美術館主任研究員、加えて財政面を含め貴重な援助を惜しまれなかった弁護士の樋田大介氏、ほか多くの方々のご支援によって展覧会の開催が国内外で可能となったことを明記して感謝を捧げたい。(政策研究大学院大学政策研究所シニア・フェロー)

 


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