[フェイス21世紀]:吉住 裕美〈洋画家〉

2021年02月01日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”あの日の光が導く先へ”

 

絵画教室 アトリエ・らぽんにて(12月10日撮影)

絵画教室 アトリエ・らぽんにて(12月10日撮影)

 

清新な光と色の調和で注目される気鋭の洋画家・吉住裕美は、埼玉県川口市出身。現在も地域に根差し夫の宇田川格と絵画教室を主催。作品は本年市役所新市庁舎にも設置され、2月には埼玉画廊で3人展も控えている。

 

幼い頃から絵に親しんだ吉住は、高校の美術コースを経て多摩美術大学へと進学。絵を学びたい気持ちは確かだったが、当時作家を志すまでの気概はなく、自分は何を描きたいのか、何のために描くのか――五里霧中に迷っていた。

 

眼前を覆う霧を払ったのは卒業直前、フランスのポンピドゥー・センターで出逢ったピエール・ボナールの絵画だった。
「そんなわけないのに、ボナールの絵は光っていたんです。“本物”はこんなにもきれいなんだと、涙が零れました」
その衝撃は今なお忘れ得ぬものだ。見た以上は描きたくなる――色彩や質感、油絵具の魅力が最大限活かされたボナールの作品は、吉住を創作へ掻き立てた。卒業翌年に初出品・初入選を果たした白日会では、現代洋画壇を牽引する作家たちから薫陶を受け、実験と挑戦を繰り返す。着実に受賞を重ね成果を示しながらも「私とは」たる表現を試行錯誤し続けた。

 

《母と子》

《母と子》162.1×130.3cm

 

2015年、息子の誕生はボナールの如く、或いはそれ以上に吉住を変えた。この子に見せたい、どうしたら感動してくれるだろう、子どもの目線に立つと世界の見え方は一変し、作品には人へ伝えようとする視点が生まれた。物事を優しく考えられるようにもなった。出産は、幸福感や心地よさを描かんとする画面に、新たな光をもたらした。

 

作家であり母であり、多忙にはなったがそれでも描き続ける自分がいる。真にやりたいこと、これまで挑んできたこと、双方が噛み合い始めた今、吉住の作品はその輝きを増していくだろう。いつか、その前に立つ誰かを包み込むほどに光が満ちるまで。

(取材:秋山悠香)

 

《緑の続く道》60.6×72.7cm

《緑の通り道》60.6×72.7cm

 

《merry-go-round》

《merry-go-round》24.3×33.4cm

 

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2021年1月にリニューアルした絵画教室アトリエ・らぽん外観。

 

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吉住 裕美(Yoshizumi Hiromi)

 

1982年埼玉県生まれ、2005年多摩美術大学卒業。現在白日会会員、川口にて同じく白日会会員の宇田川格と「絵画教室 アトリエ・らぽん」を主催。06年白日会展にて初出品・初入選、新人賞受賞を果たし、以後毎年出品。12年には富田賞を受賞し会員推挙、その後も損保ジャパン日本興亜美術財団賞など受賞を重ねる。日展にも09年以後5度入選。百貨店や埼玉画廊中心に展覧会多数。2月11日~25日埼玉画廊にて「川口の明日を担う若手作家3人展」に出品。
※「吉住」の「吉」は新字(上部が土)

 

【関連リンク】絵画教室 アトリエ・らぽん

 


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