[通信アジア]東アジアのソフトパワー:青木保

2019年11月21日 17:00 カテゴリ:コラム

 

アジアといえば中国、その巨大な力が世界中で様々な影響を与えている。しかし、その影響力に限界がある、との指摘が先日の新聞でなされていた。

 

特に経済力では、中国の企業はITなどの先端芸術を誇る企業からスポーツ用品や衣服まで幅広い産業活動を積極的に推進しており、ファーウェイなどの活動が米国を刺激し、米中貿易戦争の様相を呈していることは既によく知られている。アメリカがあれだけ神経質になるのも、その制覇力を恐れてのことに違いない。関税や様々な規則違反など理由は多いのかもしれないが、これまで圧倒的に優勢であったアメリカの得意分野に強力なライバルが出てきたことは疑いない。

 

新聞の記事では、そうした中国の産業力・製品力ではあるが、多くの有名ブランドを買収するなどして世界的に中国ブランドを浸透させたいのにも関わらず、世界的なブランド格付会社が発表するベストグローバルブランドでは上位100社に中国企業は1社(ファーウェイ74位)しか入っていないという(朝日新聞10月22日朝刊1面)。

 

そこからソフトパワー論が出てくるのだが、確かに良い製品や活動する企業があっても、一般に人々が物を買う場合、それがどこの会社の製品なのかはかなりの度合いで問題となる。

 

いまや日本の大都市の目抜き通りはフランスをはじめ欧米のファッション企業の華やかな店舗で占められているが、高価な物品を買いに行くのはそのセンスやデザインなどの魅力はもちろんのこと、どこの国の製品なのかも大きな問題となる。フランス素敵、イタリアもよい、アメリカだって、といった意識は購買する者のどこかにある。製品の背後にある国や都市のイメージが影響する。新聞の記事にも締めの言葉にハーバード大学の政治学者ジョセフ・ナイの言葉が引用されていたが、彼が言い出したソフトパワーとは、政治や経済や軍事などの力とは違って、ソフトパワーは言わばその国の持つ魅力によって他の国や人を惹きつける力であり、強制によって何かをさせるのではなく、あの国が言うのなら従ってもよい、と思わせるような力である。当然、そうしたソフトパワーは独裁国家や何をするか予測のできないような政府を持つ国からは出てこない。買いたい物をどこの国が、企業が作っているのかは、大きく影響を与えずにはいない。

 

その点、中国ブランドには一般的にみてまだ信頼がないというのである。何やかや言っても、フランスやイタリア、アメリカに、またパリもあればミラノもニューヨークもあるということになって、そこの指導者が外から見て敵わんと感じられても、スターバックスには世界中の人気が集まる。

 

中国を含め東アジアには、ナイの言うような意味でのソフトパワーがあるのは日本だけであろう。ソフトパワー論は文化だけでなく政治の透明性や経済の自由や民主化の程度までを含む広い概念なのだが、私はその達成のためにはまず文化力の発達が必要であると思う。そこで「文化力」といつも言ってきた。もちろん、文化力も生活文化から表現文化まで、広く国や社会や人々の活動を含むが、何はともあれ魅力的な文化を創ることである。

 

東アジアにはポップスから現代アート、世界に誇る美味な料理に素晴らしいレストラン、博物館・美術館、オペラハウスや劇場などができてきている。この動きを見て、私は21世紀に入って東アジアにようやく「文化の時代」が来たと言っているのだが、日本も含めこの「文化力」を東アジア共通の財貨であり、更にはダイナミックに追及すべき国や社会やそこに住む人たちの共通課題であるとはっきり認識してゆくことが、ひいては「ブランド」評価を高めることになるのであると改めて強調したい。(政策研究大学院大学政策研究所シニア・フェロー)

 


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