[フェイス21世紀]:松本 実桜〈画家〉

2020年11月26日 17:20 カテゴリ:コラム

 

”見えない世界を描く”

 

自宅玄関に飾る作品の前にて(11月撮影)

自宅玄関に飾る作品の前にて(11月撮影)

 

木にもたれかかり安らかに眠る少女と寄り添うように集う陸、海、空の動物たち。傍らにはいくつかの動物の骨が生きていた形のまま描かれている。

 

2020年第96回白日会展にて出品された松本実桜《Ether(エーテル)》は地上を飛び立った少女と地球では共に生きられない動物たちが共存する天空の楽園を描いたものである。

 

松本が油絵を本格的に学びはじめたのは佐賀大学教育学部の美術・工芸課程に進学してから。同学では小木曽誠に学び自身の写実表現を研究した。
卒業年、白日会創立90周年記念展に作品を出品し白日賞、損保ジャパン美術財団賞を受賞、画家としてスタート地点に立てたと感じる瞬間だったという。

 

学生時代からの作品のテーマは”幻想的かつ人間が安らげるような世界”。爽やかな自然を背景に動物と戯れる無垢な少女をよく描いた。
しかし昨年、松本の人生観を大きく変える出来事が起こる。生まれてから25年間共に暮らしてきた祖父の死だった。目の当たりにした身近な人の死は、悲しい以上に不思議なことだったという。

 

それから死後の世界について考えるようになる。「祖父の肉体は一体どこへ行ったのだろう」何をしていても頭から離れない。ならば作品へ昇華させようと、自分が思う死後の世界を描いた。現在に繋がるモチーフが生まれた瞬間である。

 

明るく多幸感に満ちた瞬間だけが人生だろうか。絶望感や虚無、喪失感もその瞬間を生きた証ではないか。綺麗な瞬間だけに光を当てるのではなく、今の自分が感じ得たものを素直に描こう。それがたとえ目には見えない世界だったとしても。

 

来年3月、松本は2回目の個展を開く。3年前の初個展とは全く違う趣の絵が並ぶことだろう。以前の作品の方が好きだったと思う人もいるかもしれない。

 

しかしそれでも構わない。それが彼女の、生きた証となるのだから。

(取材:牧口真和)

 

《Ether》145.5×112.1㎝ パネルに綿布、白亜地、油彩

《Ether》145.5×112.1㎝ パネルに綿布、白亜地、油彩

 

《いつか星になるまで》53.0×45.5㎝

《いつか星になるまで》53.0×45.5㎝

 

《雪融》24.3×33.4㎝

《雪融》24.3×33.4㎝

 

《堕ちていく夢をたべて》33.4×24.3㎝

《堕ちていく夢をたべて》33.4×24.3㎝

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松本 実桜(Matsumoto Mio)

 

1991年佐賀県生まれ、2014年佐賀大学文化教育学部美術・工芸過程卒業。同年白日会創立90周年記念展白日賞、損保ジャパン美術財団賞受賞。2021年3月ギャラリーもりもと(東京)にて個展開催予定。現在、白日会会員。

 

【関連リンク】松本実桜Twitter

 


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