[画材考] 洋画家:宇田川格「オリジナルブレンド」

2020年07月17日 12:00 カテゴリ:コラム

完成したペインティングオイル。ガラス瓶やポリボトルに詰めて保存している

完成したペインティングオイル。ガラス瓶やポリボトルに詰めて保存している

 

油絵の具の溶き油(ペインティングオイル)というのは材料やその配分で微妙に使い心地が違う。使い心地の良い画材は、人それぞれだが私の場合、そこにたどり着くのに10年以上の時間を費やした。

 

初めは一番ポピュラーなリンシードオイルを主成分にした溶き油を使っていたが、特有のギラつく光沢と黄変が気に入らない。どうにか解決しようと考えたのがきっかけだったが、かといって黄変しにくいポピーオイル製のものは乾燥が遅くて次の仕事が進めにくい。

 

他にも新しい材料を見つけては使ってみるものの、どれも一長一短。材料どうしをブレンドすると使用感が変わるので何十回と組み合わせを試したが、油絵は乾燥が遅く、試用の効果を確認するのに週単位で時間がかかるのが歯痒かった。

 

溶き油をブレンドする際、ずっとセオリー通りに主成分はリンシードかポピーのどちらか一方を選択していたが、ある時、先入観を捨ててこの両者をミックスしてみた。すると、光沢も乾燥時間も両者の中間をとったバランスの良いオイルが完成。最も基本的な材料二種が発想の転換で数年越しの問題を面白いように解決したのは嬉しい驚きだった。

 

さらに数種の樹脂類も付け加えて流動性や透明感を調節し、ベストな比率のレシピ完成までにはさらに何年か費やしたが、今や、このオリジナルのペインティングオイルはテレピン(揮発油)で濃度調節するだけでどんな場面でも万能に活躍する頼もしい存在になってくれている。

 

(左)《かえり道》161.1×130.3㎝ キャンバスに油彩 第96回白日会展 梅田画廊賞 (右)《雨の日に》28×21cm アクリルデネブ紙に墨「描くことは生きること 創ることは生きること」展示に出品

(左)《かえり道》161.1×130.3㎝ キャンバスに油彩 第96回白日会展(2020年) 梅田画廊賞
(右)《雨の日に》28×21cm アクリルデネブ紙に墨「描くことは生きること 創ることは生きること」展示に出品

 

《銀のポットのある静物》 キャンバスに油彩 45.5×37.9㎝

《銀のポットのある静物》 キャンバスに油彩 45.5×37.9㎝

 

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宇田川 格(うだがわ・かく)宇田川先生
1979年埼玉県生まれ。2005年多摩美術大学卒業。現在、白日会会員。2006年白日会展に初出品・初入選。以後、毎年出品。2011年同展「白日賞」受賞、会員推挙。2019年白日会神奈川支部展にて「神奈川白日賞」受賞。2020年白日会展「梅田画廊賞」受賞。
7月20日まで埼玉画廊「描く事は生きること 創る事は生きること」出品。8月24日~30日 ギャラリー・ミロ「かくかく展」出品予定。9月21日~26日 銀座・光画廊にて個展開催予定。
【関連リンク】絵画教室 アトリエ・らぽん


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