[フェイス21世紀]:青木 美歌 〈美術作家〉

2019年08月26日 10:00 カテゴリ:コラム

 

”そこに在るかたち”

 

Photo:Hiromi Shinada

Photo:Hiromi Shinada

 

「いつも“見えない世界”への疑問や好奇心が根源にあります。」

 

妖精の物語が紡がれてきた地で、石は HiddenWorld “見えない世界”への入口だと聞いた。ポーラ美術振興財団の助成を受けアイスランドでの研修を終えた青木美歌は、現在日本橋髙島屋にて帰国後初となる個展「前触れの石」を開催中だ。

《Wonder 》2017年 ポーラミュージアムアネッックス個展「あなたに続く森」 Photo:Sai / saiphotograph

《Wonder 》2017年 ポーラミュージアムアネックス個展「あなたに続く森」
Photo:Sai / saiphotograph


ガラスを選んだのは、武蔵野美術大学工業工芸デザイン学科1年の時。「何より透明なところが好きです。そこに“ある”のに“ない”様に感じることを不思議に思います。」

 

青木がガラスに注ぐその視線は、制作モチーフにも通底する。2年前の個展「あなたに続く森」では植物のライフサイクルをモチーフに、目に映らない生命の有りようを表現した。無機物ながら有機的な造形美を湛える繊細なガラス作品、それを彩る光と影、生死をめぐる命の環の輝きは鑑賞者の心を深く捉え、青木の飛躍に大きな一翼を担った。
 
★ウェブ5
その後、約1年半の時を過ごしたアイスランドの地。氷河と火山に覆われ変容する大地、オーロラたなびく空…地球そのものと言える景観や現象は、住まう星、或いは宇宙との関係を感じさせた。人為の及ばぬ自然の中、日本では当たり前に抱いたミクロな世界への興味は自ずとマクロな世界へ向かい、見つめる先、琴線に触れるものも変わった。

 

その変化は作品へ還元され、今展ではエネルギーを内奥に秘めた量的な作品が目をひく。変えようという意識はなかった。常にその瞬間、その場所で青木が享受した感動に呼応し、作品や空間はかたちを成していく。

 

石膏や土、今後はガラス以外の素材を取り入れた展開も視野に入れる。目に見えない、しかし確かに存在する記憶や時間の蓄積、命の連なり。青木の手が、感性が創り出すかたちもまた、“見えない世界”への入口となって、私たちをその内へ誘っていく。

(取材:秋山悠香)

 

現在開催中の個展「前触れの石」リーフレットイメージ Photo: shuntaro (bird and insect ltd.)

現在開催中の個展「前触れの石」リーフレットイメージ
Photo: shuntaro (bird and insect ltd.)

 

ああ

個展「前触れの石」出品作品。石膏や土を用いた作品も見られ、今後の新たな展開に期待が膨らむ。

 

《Her songs are floating 》2006年 北海道立近代美術館「Born in HOKKAIDO」展 Photo:Toshisato Komaki

《Her songs are floating 》2006年 北海道立近代美術館「Born in HOKKAIDO」展
Photo:Toshisato Komaki

 

バーナーワークによって生み出される繊細な造形は、脆さ、危うさをも美に昇華する。 硬質なのに流動的、固体と液体を行き来する制作過程にもガラスの魅力を感じるという。

バーナーワークによって生み出される神秘的な造形は、脆さ、危うさをも美に昇華する。硬質ながら流動的、固体と液体を行き来する制作過程や壊れてしまうところにもガラスの魅力を感じるという。

 

かつて時を共に過ごした人たちとの思い出は廃車になった今なお蓄積し育ってゆく。

ルーフトップの植物の根。かつて共に時を過ごした人たちとの思い出は廃車になった今なお蓄積し育ってゆく。
照明にもこだわり、ガラスの透明さを際立たせる光や、時にガラス以上にはっきりと目に映る影もまた、作品の一部となる。

 

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青木 美歌 (Mika Aoki)

 

1981年東京都生まれ、北海道育ち。2006年武蔵野美術大学卒業後、文化庁新進芸術家海外研修制度にてイギリスへ留学、Royal College of Art修士課程修了。平成29年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてアイスランドにて研修。08年第11回岡本太郎現代美術展入選、11年SICFグランプリ(青山スパイラル)。17年銀座・ポーラミュージアムアネックス「あなたに続く森」はじめ個展・グループ展多数。
8月14日(水)~9月2日(月)日本橋髙島屋S.C.本館6階美術画廊Xにて個展「前触れの石」開催中。8月31日(土)~9月3日(火)世界遺産 元離宮二条城でのグループ展、ICOM京都大会開催記念「時を超える:美の基準」にも出品予定。

 

【関連リンク】青木美歌

 


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