[フェイス21世紀]:泉桐子〈日本画家〉

2018年10月01日 10:00 カテゴリ:コラム

 

横浜市のアトリエにて(9月7日撮影)

横浜市のアトリエにて(9月7日撮影)

 

祈りのかたちを彫るように

 

その絵に描かれる人型は、どこか神話の登場人物を思わせる。太古の宗教画のような圧巻の大作で、昨年「アートアワードトーキョー丸の内」グランプリを受賞。今年は「第7回東山魁夷記念日経日本画大賞展」に入選するなど、泉桐子の日本画表現は今、高い注目を集めている。

 

美大出身の父の影響で幼い頃から美術館を訪れ、ディック・ブルーナのブックデザインやマティスの切り絵に衝撃を受けた。自分には水を用いた画材が合うと感じ、武蔵野美術大学の日本画学科に入学。大学2年の夏、瀬戸内海の離島での滞在制作を機に、自由な感性で描けるようになった。大学院進学後はデザイン的な感覚を取り入れつつ、修了制作の「箱庭療法」では塗り残しの線を活かした古典技法「彫り塗り」を知らず知らずのうちに使用。「彫るように描く、という感覚を形にすることができ、大きな一歩となりました」。作品の四隅は塗り残すことが多く、彫り塗りの質感とあいまって時に「版画的」とも評される。

 

同作を描く前、沖縄と長崎を訪れた。丸木位里・俊の「沖縄戦の図」、そして舟越保武の「長崎二十六殉教者記念像」を見るためだ。「どちらもその場を“祈り”のための空間に変える力があった。絵が残り続ける理由は様々ですが、長い間大事にされてきた作品の多くは信仰心が反映されたものではないかと感じました」。その気づきを基に、墨やインド更紗を参照した色彩を用いながら、「祈る行為の純粋な美しさ」を豊かな自然に変えて描き出した。

 

瀬戸内海、沖縄、長崎。新たな場所を訪れる中で作風が変化し、次第に自分の絵が好きになってきたと語る。秋にはヨーロッパを旅して、教会のフレスコ画を鑑賞する予定だ。古今東西のイメージに触れる中で、泉の絵画は更に変わってゆくだろう。時を経ても強く響く、生き生きとした祈りのかたちへと。

(取材:岩本知弓)

 

《箱庭療法》2016年 270×360cm

《箱庭療法》2016年 270×360cm

《とある蒐集家の話》アートアワードトーキョー丸の内 2017 グランプリ受賞作

《とある蒐集家の話》アートアワードトーキョー丸の内 2017 グランプリ受賞作

 

《we can’t go home again》

《we can’t go home again》

 

《庭師と門番》

《庭師と門番》

 

《夜の箱「骨」》

《夜の箱「骨」》

 

ディック・ブルーナのブックデザイン集。「かわいくかつ格好いい」デザイン性や、黒色の使い方に、10歳の頃衝撃を受けた

ディック・ブルーナのブックデザイン集。「かわいくかつ格好いい」デザイン性や、黒色の使い方に、10歳の頃衝撃を受けた

 

アトリエ風景

アトリエ風景

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泉桐子(Izumi Toko)

1992年神奈川県生まれ。2014年武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業、16年同大学大学院修士課程日本画コース修了。卒業制作展・修了制作展でともに優秀作品賞に輝く。16年「第52回神奈川県美術展」はまぎん財団賞、17年「アートアワードトーキョー丸の内2017」グランプリ受賞など近年目覚ましい活躍を見せる。今年も「第7回東山魁夷記念日経日本画大賞展」入選や、杉並区の数寄和と東京九段耀画廊での個展開催など精力的に発表。11月17日~25日、東京九段耀画廊でのグループ展「第2回耀画廊選抜展 vol.2」に参加する。

 

 

 


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