[画材考] 画家 淺井裕介

2017年03月15日 14:56 カテゴリ:コラム

 

泥絵-土と水

撮影:宮田君平

 

絵を描くその土地へ行き、土を掘り泥の絵の具としその場所で描きその場所で観てもらう。2008年のインドネシアでの滞在制作の中で初めて発表した「泥絵」というシリーズは今年で10年目を迎える。

 

これまで行った土地はタイ、インド、アメリカ、韓国をはじめ、国内だと北海道から青森、福島、富山、長野、福岡、熊本、東京などなど様々な土地の土を掘って、その土地に触れながら小学校や美術館、森の中に建てられた壁面などそれぞれの場所で描くべき形を模索してきた。

 

土は崖や山、畑や神社、美術館や個人宅まで様々なところから許可をもらい頂いてくる。またそうして土を掘っていると「砂で絵が描けるんですね」と言われることもあるが砂では水に溶けないのでこれは似て非なるもの、できるだけ指ですりつぶした時に粒の少ない、粘土質なものほどいい。その土から細かな根っこや虫、種子など不純物を取り除き天日でよく乾燥させて金槌でよくすり潰し料理用の細かな網などでふるいにかければ泥絵の具の顔料が完成する。あとは水を混ぜて描くだけ。

 

土は僕たちが思っている以上に色数も手触りも様々で描くときにはできるだけ土に呼吸を合わせていく、そうすると土は生き物のように気まぐれでとても魅力的にふるまい、一向に飽きることがない。そしてこの「飽きないこと/慣れないこと」こそが物を作る人間にとってじつは技術を磨くことよりもよっぽど大切なことなのではないかと思っているし、まだ見たことのない絵を求めてまた描こうと思わせてくれるのだと思う。

 

《yamatane》2014年10月 Rice University Art Gallery/テキサス州ヒューストン・アメリカ 撮影:Nash Baker

 

《誕生日の森―父の木、母の山》2014年2月 マハーラシュトラ州ガンジャード村・インド 撮影:吉澤健太

 

《全ての場所に命が宿る》2015年1-2月 東京都現代美術館 撮影:加藤健

 

 

土を採集する筆者(右)

淺井裕介 (あさい・ゆうすけ)

1981年東京都生まれ。土や道路用白線、マスキングテープなどの素材を用いて、巨大な壁画や地上絵を制作。3月11日~4月15日にかけては天王洲・URANOのグループ展「Somewhere I Have Never Travelled 〜 切り火を持って」に参加。そのほか3331 Arts Chiyodaの「3331 Art Fair 2017」(3月17日~20日)、「北アルプス国際芸術祭」(6月4日~7月30日)、「EARTH ART PROJECT 2017」(7月15日~8月5日)などで作品を発表予定。

 

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『この場所でつくる Yusuke Asai Art Works 2011-2015』表紙

『この場所でつくる Yusuke Asai Art Works 2011-2015』表紙

『この場所でつくる Yusuke Asai Art Works 2011-2015』

 

昨年11月、初の作品集を求龍堂より刊行。2011年から2015年の間にアメリカ・ヒューストン、代々木公園、インド、東京都現代美術館などで開かれた6つの展示を、約100点の図版で紹介している。巨大な作品のスケール感や、細かな描き込みがわかる部分拡大図版が満載。淺井の作品のほとんどは展示が終わると消されて残らないが、その作品たちに再び出会うことができる。
◎アートディレクション&デザイン:近藤一弥、B5変型(横型)、並製本、136頁、本体2,700円+税、ISBN 978-4-7630-1604-1 C0071

 

今年1月~2月には恵比寿・NADiff Galleryで出版記念展を開催。画集の上にさらに絵具を載せて、新たな作品をつくり出した。

今年1月~2月には恵比寿・NADiff Galleryで出版記念展を開催。画集の上にさらに絵具を載せて、新たな作品をつくり出した。

 

【関連リンク】求龍堂・この場所でつくる

 

 


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