[フェイス21世紀]:広垣 彩子〈ガラス作家〉

2017年01月11日 16:05 カテゴリ:コラム

 

ガラスで触れる“曖昧さ”

 

東京ガラス工芸研究所にて(2016年12月2日撮影)

 

「Ambiguity」2016年 49×38×38㎝

幾千もの極細のガラス棒から成る、ミステリアスな造形。その作品のタイトルは、曖昧さを指す「Ambiguity」。宇宙の生命体や胎内の子どもを思わせるような同作は「国際ガラス展・金沢 2016」で大賞に輝き大きな話題を呼んだ。

 

「物心ついたときから、なぜかガラス職人になりたいと思っていました」。広垣はそう朗らかに笑いながら、幼少期を思い返す。「三重の海岸に小さなガラス片が落ちていて。それが波に洗われ“見えなくなった”瞬間が忘れられませんでした」。高校卒業後、大阪や東京の工房を経て、ガラスの街・富山で2年間学ぶ。現在の手法で制作を始めたのはその頃からだ。

 

丸みを持たせた発泡スチロールを薄く彩色する。1㎜〜1.8㎜の細さを0.1㎜単位で使い分けながら、数千本のガラス棒を丹念に挿す。全体の輪郭が、色が、じんわりとぼやけていく。表現するのは「目に見えるものと見えないもの」の曖昧な境目だ。「特に命は見ることができない謎めいた存在。受賞作で肌色を用いたのは、人の命を感じられる色にしたかったからです」。透明な「ガラス」だからこそできる表情。広垣はそれを引き出すことで、不確かなものを可視化しているのだろう。制作の出発点となるのは、幼い頃の不思議な体験や、日常で出合うもやもやとした感情。それらをイラストに描き起こした後、実作に移る。一つひとつの作品には「絵本が描けるほど」の物語が流れている。

 

ここ5年程アートピースの制作から離れていたが、作家として再スタートを切るため今回の国際ガラス展に応募した。受賞を追い風に、今後は現代アートのコンクールにも挑戦し、国内外で広く見てもらいたいと語る。命の曖昧なかたちをなぞるようなその作品は、私たちの中にあるまだ知らない感情に、ひんやりとした柔らかさで触れていくだろう。

(取材:岩本知弓)

 

極細のガラス棒を、発泡スチロールに1本1本挿していく。すべて手作業。

 

スケッチブックには、作品の出発点となるイラストが。絵本制作も今後の目標の一つ。

 

「もし体液を身につけることができたら」というコンセプトで、アクセサリーも制作。「ガラスは涙などの体液に似ている気がします」

「もし体液を身につけることができたら」というコンセプトで、アクセサリーも制作。「ガラスは涙などの体液に似ている気がします」

 

初めてガラス棒を用い制作した 《imagenary friend #1》。「今はもう会えない友達」をテーマにしている。

 

富山ガラス造形研究所の修了制作としてつくった大作 《imagenary friend #2》

 

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広垣 彩子 (Hirogaki Ayako)

 

1984年奈良県生まれ。大阪・谷町ガラスhono工房、東京ガラス工芸研究所を経て、2012年富山ガラス造形研究所修了。現在は神奈川県在住。昨年、3年に一度開催される「国際ガラス展・金沢 2016」で大賞を受賞した。受賞作品展は1月29日まで石川県能登島ガラス美術館で巡回中。1月20日からはドイツのALEXANDER TUTSEK-STIFTUNGにて作品が紹介される(6月30日まで)。

 

国際ガラス展・金沢 2016 in 能登島

【会期】 2016年11月26日(土)~2017年1月29日(日)

【会場】 石川県能登島ガラス美術館(石川県七尾市能登島向田町125-10)

【TEL】 0767-84-1175

【開館】 9:00~16:30 ※入館は閉館時間の30分前まで

【料金】 一般800円 中学生以下無料

 

【関連リンク】 広垣彩子HP

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