[通信アジア] 10月21日のアートと音楽:青木保

2017年01月16日 10:00 カテゴリ:コラム

 

 

リオの「オリンピック・パラリンピック競技大会」をテレビで見たが、特にパラリンピックでのアスリートたちの姿に感動した。さまざまな競技に熱心に激しく技を競い合う姿は、障害のあるアスリートたちの競技という一般の認識を超え、人間の可能性を追求する姿としてオリンピック競技に参加するアスリートたちの姿と合わせ、スポーツする人間の可能性として見えた。それに競技をする姿の美しさが印象に残った。

 

ところで「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」は、リオでのオリンピック・パラリンピック競技大会が終わって、いよいよ2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会への準備年に入ったことを記念して10月の19日から22日まで京都と東京で開かれた一連の行事である。国立新美術館ではその行事の一環として文化庁主催による展覧会を開催した。「ここから」と題する展覧会であるが、「アート・デザイン・障害を考える3日間」と副題にあるようにパラリンピックの開催、そして「オリンピック・パラリンピック」がスポーツだけでなく文化の祭典でもあることを念頭に開かれた展覧会である。

 

私はアートの表現において特に障害のある人の作品という必要はないと考えているが、というのも歴史に残るようなアーティストにも障害のある人はいるし、あくまでも作品の評価が一切であるとも思う。もちろん障害があることは作品の制作に困難が伴うし、その困難を克服しての作品の制作には深く感銘を受けずにはいられない。ピアニストの辻井伸行氏の演奏に感激するのと同じであろうか。展覧会そのものは素晴らしかったが、作品とともに興味深かったのは、展示された最先端のスポーツ義足や車いすのデザインの素晴らしさである。リオのパラリンピックの中継でも競技するアスリートの義足のシャープなデザインに注目することがあったが、東大の山中俊治教授のデザインになる義足などの補助器具は工芸作品としても実に優れていてまさにアートである。三部に分かれた展覧会は美術作品と山中作品と企業やデザイナーとのコラボレーションによるデザイン商品の展示に分かれていたが、全体として「ここから」未来を見つめる希望に満ちた展覧会となった。

 

国立新美術館「ここから」展で紹介された最先端のスポーツ義足

 

BEAMSと社会福祉施設「工房集」の所属アーティストがコラボした「ももももワンピ」

 

障がい者と企業・デザイナーとのコラボレーション作が多数展示された

 

さらに10月21日の昼には、ヴァイオリニスト、五嶋みどり氏主宰の演奏家を、これは国立新美術館の企画として開催した。五嶋氏は、「ミュージック・シェアリング」という音楽活動をされていて、ご自分の演奏もするが、「楽器指導支援ボランティア」として障害のある人たちのオーケストラ演奏も行う。当日もこのオーケストラのために作曲家の久石譲氏が作曲された曲、MIDORI Songを演奏した。「楽器指導支援プログラム」は特別支援学校の障害を持つ子供たちへの、音大生や音大卒業生による継続的な楽器演奏指導であり、2006年から行われている。

 

私がみどり氏の演奏を聴いたのはかなり以前、パリでエッシェンバッハの指揮するパリ管の演奏会での独奏者それにエッシェンバッハのピアノとのデュオの演奏会で、二日続けて聴きに行った。それが今年度は6月に開催したロビーコンサートに引き続き演奏会を鑑賞することが出来た。アートと音楽、素晴らしい一日だった。

(国立新美術館館長)

 

「スポーツ・文化・ワールドフォーラム」文化会議 分科会で挨拶する筆者(左端)

 


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