[フェイス21世紀]:京都 絵美〈日本画家〉

2016年07月25日 16:00 カテゴリ:コラム

 

透明に近づいて

 

 

「透明なもの、薄いもの、ひらひらとしたもの、ぼやっとしたもの。描きたいイメージは昔から変わらないように思います」。現代には珍しい絹本に、薄塗りで儚い女性像をのせる京都絵美(みやこ・えみ)。「山種美術館賞」の後継として今年創設された「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」(展覧会はすでに終了)で、「ゆめうつつ」が大賞を受賞。古典的な素材で現代の女性を幻想的に魅せ、「未来をになう日本画」として高く評価されたが、京都が今の作風を確立したのは最近のことだという。

 

画家を志したのは、油絵を描いていた父の影響。高校時代は海外留学への関心も高く、「そのためにまず日本を知りたい」と日本画の道に立った。大学受験では、透明水彩で花やガラス器などのモチーフを好んで描いた。

 

東京藝術大学に進学したはいいが、現代の一般的な日本画は雲肌和紙に岩絵具を盛り上げるもので、透明感を表すには向かなかった。一人で線や薄塗りを追求しようとするも、技術が足りず表現が浅くなる。一時は絵を辞めることも考えた。

 

京都は自分の絵を描くことを一旦離れ、大学院からは保存修復を学ぶことに。励んだのは仏教絵画の模写。古典の圧倒的な描写力から得た技術は、その後の制作を支える基盤となった。再び絵を始めた京都は、絹本に辿り着く。「絹は裏からも描けるので重層的に表現できる。薄い中に厚みや深みがあるんです」。

 

薄描きは古いのではないかというコンプレックスもあったが、受賞作を見た人からは「むしろ新しく見える」という言葉をもらった。今後は掛け軸や屏風にも取り組みたいと意気込む。

 

京都が目指すのは単なる「薄さ」ではなく、塗り重ねても決して濁らず、絵具の物質的な厚さがなくとも深い、シンプルな「強さ」なのだろう。今の京都の絵画は、透明に近づくほど、さらにしなやかにその強度を増してゆくのだ。

 

(取材・撮影:岩本知弓)

 

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京都 絵美 (Emi Miyako)

 

1981年福岡県生まれ。東京藝術大学卒業後、同大学大学院文化財保存学専攻保存修復日本画博士後期課程修了。国宝「孔雀明王像」の原図像の復元に関する研究で、第6回お仏壇のはせがわ賞特別賞受賞。博士学位(文化財)取得。山種美術館開館50周年を記念した「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」(展覧会は6月26日で終了)にて大賞を受賞。現在同大学非常勤講師、日本美術院院友。今後は「夏の芸術祭2016 次代を担う若手作家作品展」(8月10日~16日、日本橋三越本店)、「春待の月 現代女流作家展」(11月30日〜12月6日、日本橋髙島屋)に出品予定。

 

 

 

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