[フェイス21世紀]:竹村 友里 〈陶芸家〉

2016年05月02日 10:00 カテゴリ:コラム

 

人々に寄り添い 日々を彩るうつわを――

 

 

2012年に金沢21世紀美術館で開催され、大きな話題を呼んだ展覧会「工芸未来派」。工芸の“現在性”と“世界性”を問い、今日的なアートとして捉える視点を提案した同展では、12名の気鋭の工芸作家が紹介された。その一人が、金沢を拠点に国内外で発表を重ねる陶芸家・竹村友里である。

 

曲線で構成されたふくよかにして斬新な造形に、鮮やかな色づかいが目を引くうつわ。いわゆる「工芸」の重さを感じさせないその作品を、同館の秋元雄史館長は「工芸とデザインの魅力を兼ね備えた」表現であると評している。

 

 

グラフィックデザインを仕事とする父の姿を見て育ち、将来は「デザイナーか画家になりたい」と高校の美術科で主に油絵を学んだ。絵を描くことは好きだった。しかし、学ぶほどに、絵の具での表現に限界を感じるようになっていったという。

 

そのようなときに出合ったのが、陶芸だった。旅行で訪れた多治見で開催されていた国際的な陶芸のコンペティション。展示されていた先鋭的な作品の数々に、陶芸の概念を覆された。「これだ!と思いました。やきものだったら、立体的なデザインもできて絵も描ける。自分がやりたい表現ができると直感しました」。2000年、竹村は愛知県立芸術大学のデザイン・工芸科に進学。陶芸の道を歩み始める。

 

当時、愛知県芸で教えていたのは、主に伝統的な工芸技法と大量生産用のプロダクトデザインで、竹村は「その中間の表現をやりたいと一人でもがいていた」と振り返る。試行錯誤を繰り返し、オブジェからインスタレーション、卒業制作ではやきものの楽器を制作した。一方で、早くから積極的にコンペティションに出品して入選を重ね、そのような場でのデザイナーや建築家など他分野のクリエイターとの出会いが、今日の広い視野につながったようだ。

 

 

大学卒業後は、滋賀県陶芸の森での滞在制作を経て、06年に金沢卯辰山工芸工房に研修者として入所。愛知で陶芸を基礎から学び、信楽のダイナミックな表現を知って、金沢の華やかな色絵の世界へ。「それぞれに学ぶところがあり、その全てがあったからこそ、今の表現があると考えています」と語る。

 

「加賀百万石」の城下町として歴史と伝統が息づく金沢は、金沢漆器や九谷焼、加賀友禅など伝統工芸でも有名な「工芸のまち」だ。「金沢では、日常で工芸に触れるのはすごく自然なことなんです。作品を作ってお客様に見てもらってという自然な流れが出来ており、皆さん非常に目が肥えています。一方で新しいものを受け入れる懐の深さもあって。作家としてとても鍛えられる環境です」。金沢に移り住んで、今年で10年となる。

 

 

 

12年の「工芸未来派」に出品した茶碗のシリーズも、金沢に来て初めて取り組んだものだ。「大学時代はあまり縁が無いと思っていたお茶も、ここでは身近な文化です。卯辰山工芸工房の課題で茶器を制作したり、自分でもお作法を習ったりするうちに、制作のアイデアが湧いてきました」。また、茶席で自らが使う側の目線に立つことで、「どうすれば使ってもらいやすいのか」を考えるようにもなったという。色や形から手触り、重さにまで気を配る。美しく、使いやすく、日々を彩るうつわを――。自己表現であった作品は、いつしか「人のために」という想いの結晶となった。

 

日本橋三越で2度目となる5月の個展には、近年取組んでいる金箔、銀箔の意匠や新たに吹き付けで彩色した作品など「より作り込んだものを出したい」と語る。茶碗のシリーズに手びねりのオブジェ、片口やぐい呑などの酒器による、この季節に相応しい華やかな展観となるだろう。「日によって服を選ぶのと同じ感覚で、私の器を使って楽しんでほしい」。人々の日常に寄り添い、豊かさを与えてくれる竹村のうつわ。どのような新作が並ぶのか、今から楽しみでならない。

(取材・撮影:和田圭介)

.

竹村 友里 (Yuri Takemura)

 

1980年名古屋市生まれ。2004年愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科陶磁専攻を卒業。06年滋賀県立陶芸の森アーティスト・イン・レジデンス修了。09年金沢卯辰山工芸工房陶芸工房技術研修修了。現在は金沢在住。主な受賞に06年「第46回日本クラフト展」招待審査員賞(金子賢治賞)、07年「第2回菊池ビエンナーレ」奨励賞など。12年金沢21世紀美術館「工芸未来派」。同展は文化庁海外展「日本の工芸未来派」として、15年10月から16年2月まで、米NYのミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザインにて開催された。日本橋三越本店での個展に加えて「アートフェア東京2016」(11日~14日、東京国際フォーラム)にも出品する。

 

 

「竹村 友里 陶展」

【会期】2016年5月4日(水・祝)~5月10日(火)

【会場】日本橋三越本店 本館6階アートスクエア

【会場】(東京都中央区日本橋室町1-4-1)

【TEL】03-3241-3311

【休廊】会期中無休

【営業時間】10:30~19:30

 

【関連リンク】竹村友里ウェブサイト

 


関連記事

その他の記事