サザビーズ香港「フル サークル―吉原治良コレクション」内覧会レポート

2015年08月15日 16:08 カテゴリ:コラム

 

 

サザビーズ香港は10月、2015年秋季オークションのハイライトとして、前衛集団「具体美術協会」を率いた吉原治良(1905~72)の世界初の規模となるオークション「フル サークル―吉原治良コレクション」を開催する。「具体」の作家、なかでも吉原治良という一人の作家にフォーカスしてオークションが開催されるのは初めてのこと。作家の個人蔵として保管されてきたマーケット未出の貴重な作品群が出品される。

 

これに先駆けて8月1日と2日、京都市左京区の白沙村荘で内覧会が開催された。会場の白沙村荘は、大正・昭和期の京都画壇で活躍した日本画家・橋本関雪(1883~1945)が、制作を行うアトリエとして造営した邸宅。画家の美意識が随所に反映され、国の名勝にも指定されている池泉回遊式庭園と昨年9月に新装された橋本関雪記念館にて、「円」シリーズをはじめとする1930年代中頃から70年代初頭までの作品約20点、および「具体」関連の資料等が紹介された。

 

関雪が妻のために造営したという茅葺屋根の茶室「問魚亭」。

 

「問魚亭」床の間には1961-63年に制作されたペインティングが展示された。

 

庭園中央に位置する大画室「存古楼」の油彩(1960年)。120号というサイズは、これまでマーケットに出た吉原作品の中でも最大である。

 

近年、白髪一雄や元永定正、田中敦子ら「具体」作家の名は、国際的なオークションの場でも聞かれるようになっている。2013年、サザビーズパリのオークションで、白髪の「激動する赤」が約5億5,000万円で落札されたのも記憶に新しい。一方で、彼らのメンターであった吉原治良はほとんどの作品が美術館に寄贈されていることから、これまであまりマーケットに登場することがなく、評価も定まっていない。サザビーズ香港はこの内覧会に際して、アジア圏のVIPを対象としたツアーを実施、国内外の数多くのコレクターが会場を訪れた。「具体が生まれた関西の文化や歴史を学んでもらうためのツアーです。私たちは、戦後の世界の美術史において非常に重要な前衛集団が、これからも継続して評価されていくためには、コレクターの方々の理解も必要だと考えています」と同社の寺瀬由紀氏は語る。

 

出品作の中で最も大きい120号の油彩作品は、落札予想価格が3,200万~4,800万円。白髪の100号、150号の作品に億を超える値がつくのを考えると控えめな数字であるが、世界的な「具体」人気が過熱するなか、落札予想価格を大幅に上回ることが予想される。また、戦後日本美術の研究で知られる富井玲子氏(インデペンデント・スカラー、ポンジャ現懇主宰)が、「吉原治良の残したもの:具体と《円》」を寄稿するなど、具体を導いた吉原に光を当て、その画業を包括的に紹介するこのオークションは、コレクターだけでなく研究者からも大きな注目を集めている。

 

コレクションはこの後、シンガポール(9月12・13日)、台北(9月19日・20日)、香港(10月2日~5日)の内覧会を経て、香港コンベンションセンターで行われるアジア現代美術オークションに出品される。

 

 

【関連リンク】Sotheby’s「A Celebrated Gutai Founder’s Personal Collection」(英文)

 


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