富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : 追悼ジェーン・ファーヴァー

2015年06月21日 10:00 カテゴリ:コラム

 

ジェーン・ファーヴァーは「グローバル・コンセプチュアリズム」展のカタログ表紙に彦坂尚嘉の「フロア・イベント」招待状(1971年)を選んだ

 

さる4月29日、ジェーン・ファーヴァーがヴェニスで客死した。享年68歳。長年の友人であるジョーン・ジョナスがビエンナーレのアメリカ代表となり、その業績を顕彰するカタログ編集の任を終えて、にこやかに打ち上げをした夜のことだったと聞く。

 

今年のベニビを統率したオクイ・エンヴェゾーのようなカリスマ・キュレーターに比べると日本での知名度は低いかもしれないが、欧米の美術界では1999年に「グローバル・コンセプチュアリズム」展を企画開催した中心人物として広く知られている。

 

同展は、それまで欧米中心史観で語られてきたコンセプチュアル・アート(概念芸術)を脱中心化し、同時多発のコンセプチュアリズムとして再考する野心的な試みだった。

 

当時、89年ポンピドーセンターが企画した「大地の魔術師」展以後、90年代の文化多元主義への傾斜を受けて、非西洋の現代美術への関心は高まっていたが、一つの動向を全世界横並びで検証する展覧会はまだなかった。

 

今ならウォーカー・アートセンターやテートモダンのポップ・アート展(2015年)、またジューイッシュ美術館のプライマリー・ストラクチャー展(2014年)のように、グローバルな視座を掲げた展覧会も出てきているが、その嚆矢をきったのが同展だった。(なお、「グローバル・コンセプチュアリズム」展開催の経緯はMoMAのオンライン版研究サイト「Post」を参照されたい。http://goo.gl/7IDuuW

 

しかし、故人の業績を考えるとき、一貫して真摯に非西洋の現代美術に取り組んだ故人のオープンなビジョンを忘れることは出来ない。たとえば、クイーンズ美術館在任中、97年には、南アジア系アーティストを紹介する「インドから」展を企画して評価を得た。また、同館に着任する以前の91年、レーマン大学付属アートギャラリーで、柳幸典のアメリカ初の美術館個展を企画。このときに発表された《ワールド・フラッグ・アント・ファーム》はアートのグローバル化時代のシンボルとなり、柳の登場を世界に強く印象付けた。さらにクイーンズでは、やはりアメリカ初となる蔡國強の美術館個展を企画。日本やベニスで活躍していた蔡だが、アメリカでは無名状態。大規模なインスタレーション作品《文化大混浴》は大きな話題となった。その後も、この二人のアジア作家との交友は続き、クイーンズの後に着任したMIT付属リスト・アートセンターの館長時代には大学構内の彫刻プロジェクトの一つに蔡國強を取り上げている。

 

こうした非西洋への親近性があったからこそ「グローバル・コンセプチュアリズム」展のような先見性の高い企画を実現できたのだろう。

 

私個人のことでいうと、故人は友人でもあり、仕事上の恩人の一人でもあった。「グローバル・コンセプチュアリズム」展の日本セクション企画は私のキュレーターとしての初仕事だった。謹んでご冥福を祈ります。

 

MIT構内に《リング・ストーン》(2010年)を設置したジェーン・ファーヴァー(左)と蔡國強(Photo Chinyan Wong, courtesy Cai Studio)

 

筆者(右)とロンドンにて、2000年 (Photo Jeff Rothstein)

 


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