[通信アジア]香港のアートBaselと森美術館リニューアル開館:南條史生

2015年04月19日 08:00 カテゴリ:コラム

 

アートバーゼル香港(2015年3月15日から17日)に行ってきた。今年は、初めてUBSがスポンサーになり、時期も5月から3月に移されての開催である。しかしその勢いはとどまるところを知らない。対抗馬と目されてきたシンガポールのアートフェアでは、とても太刀打ちできない規模とイヴェントの数である。

 

資料を見ると、参加ギャラリーの数は233軒である。日本のギャラリーも15以上が参加している。これらのギャラリーが相当の経費負担し、またそれをカバーする売り上げをあげているのだとすると、その経済規模は大変なものだ。さらに、その数日間に訪問する関係者、コレクターの数の多さ、ギャラリーが主催しているディナーやレセプションによるメリットもあるはずだ。おしなべて見ると、かなりの経済効果だということが言えるだろう。これは明らかに巨大な産業である。アートは個人の趣味の問題だと考えてきた、日本の政府や企業は本当に考え直して欲しい。きちんと制度を作り、真っ当に扱わなければ、責任を果たせないだろう。

 

アートバーゼル香港内部

アートバーゼル香港内部

 

一方で、中の構成を見てみると、様々な方法で、ギャラリーや作家をキューレーションしており、この状態はただ、ギャラリーが商業的に集まっているのとも違うコンテクストを生み出している。多々あるビエンナーレや美術館の企画展よりも、新しいアーティストの発見の機会は多い。こうした発掘と発見の場という視点からアートフェアの功罪を論じてもいいのではないだろうか。

 

今年は、本体のアートバーゼルに加えて、あらたにセントラルというアートフェアが立ち上がった。こちらは、海際の公園に大型テントを立てて開催されていて、より若手のギャラリーや作家に焦点を絞ったフェアである。見た感じでは、こちらの方が数も多すぎず、焦点がはっきりしているのでシャープな感じがする。評価の定まった高価な作品でなく、何か新しい動向や息吹を探しているコレクターは、こちらを喜びそうであった。

 

セントラル・アートフェアの入り口

セントラル・アートフェアの入り口

 

さて、森美術館は3カ月以上の改修工事の閉館を終えて、4月25日から、リニューアルオープンを迎える。改修の内容は床や天井、それに壁のシステムなどを刷新するもので、今後は、より使いやすく、また環境にも優しいものとなる。

 

最初の展覧会は、ポンピドー・メッスで開催された「シンプルなかたち」という展覧会で、古今東西のシンプルな形のオブジェ、彫刻を集めている。特筆すべきは、出品物のおよそ40%がフランス側と協議の上日本側で追加した内容になっているということである。そこで、ブランクーシやメダルド・ロッソ、アニッシュ・カプーアに並んで、長次郎の黒楽や田中信行の漆、黒田泰蔵の白磁、あるいは仙厓の円相や岡田紅葉の富士山の写真、さらには大巻伸嗣のインスタレーションなどが並ぶ。

 

それにプロペラや数理模型、コルビュジエが集めた石ころなど、アート以外のオブジェも並び、極めて多彩だ。フランス発の展覧会の巡回だが、テーマを尊重しつつ、日本的視点で新たなコンテンツを推薦し、それを相当程度受け入れてくれたフランス側のキュレーター、ジャン・ド・ロワジーには感謝を述べたい。このような制作のあり方は、ある意味で、現代の美術の融通無碍な状況と、変幻自在な現代の巡回展のありかたを表しているのではなかろうか。

(森美術館館長)

 

「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」展示風景イメージ

「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」展示風景イメージ

 

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