久松知子:絵画に込めた「美術への愛憎」

2015年03月31日 16:21 カテゴリ:コラム

 

第18回岡本太郎現代芸術賞で岡本敏子賞を受賞、また第7回絹谷幸二賞で奨励賞を受賞するなど目覚ましい活躍を見せる日本画家・久松知子。「日本の美術史」を一枚の絵として絵画化させるという前代未聞の作品を描き上げ、一躍注目を集める若き画家はなぜこのような作品に挑んだのか、「日本の美術」に対する想いを訊いた。(インタビュー・テキスト/橋爪勇介)

.

■「いち美大生の美術への愛憎」が動機

―まずは今回、絹谷幸二賞奨励賞を受賞した《日本の美術を埋葬する》についてお聞きしたいと思います。これは当初、2014年度の東北芸術工科大学卒展に出品された作品ですが、どのような着想から生まれたのでしょうか?

 

久松:「いち美大生の美術への愛憎」が制作の動機だったのだと思います。大学に入るまでは現代美術をほとんど見たことがなかったんですが、大学1、2年生の頃、会田誠さんの画集や赤瀬川原平さんの本を読んだりする中で、価値観が変わりました。「アート」というものは人の価値観を転倒したり、変化させたりするものなんだと思い始めて、現代美術にも触れるようになったんです。それから美術史の授業を履修したり、『美術手帖』を読んだりしている中で、美大生なりに見た中での、アートシーンや美術史のイメージをつかんでいきました。そうやって自分が今まで見てきた美術への想いみたいなものを実際のアートシーンには接続したことがないのに、美術への憧れや、愛だけは増え続けていった田舎のいち美大生の、久松知子の視点から描きたかったのです。絵画そのものが実際の美術の文脈と地続きに存在しているような構造の絵画を見てみたくて。それが《日本の美術を埋葬する》に結びついていきました。

 

《日本の美術を埋葬する》

《日本の美術を埋葬する》

 

―《日本の美術を埋葬する》はそのタイトルや構図を見れば分かる通り、クールベの《オルナンの埋葬》を引用していますよね?これには何か理由があるのでしょうか?

 

久松:美術史を大学で学んだ時に、西洋美術史は非常に体系的で、次世代が前世代を乗り越えるという循環があると知りました。でもなぜか日本の美術史は体系的には教わらなかったんです。ものの見方の1つとして、日本の美術史と西洋の美術史を対立軸としたとき、「日本の美術も西洋のように歴史が積み重なっているのかも」と思ったんですね。仮説のようなものですがそれを絵画にしたいと。《日本の美術を埋葬する》の構造は、モダニズムの西洋美術史観に日本の近現代美術史観を代入すれば、日本の美術でも前世代を次世代が“埋葬して”乗り越えていくという構造です。椹木野衣さんの「悪い場所」という考え方を、美術史やアートシーンを見ていて感じました。日本では美術史って体系的に積み上がっているのか?積み上げられるのか?という疑問を1枚で見渡せる絵画にしようとコンセプトを固めました。クールベは、西洋近代美術史観のはじまりとして、日本の美術を代入するための器として引用しています。

 

 

―仰るように「日本の美術」と一口で言ってもその中には伝統的な画壇の流れがあり、前衛があり、現代アートがあり…といったように様々な領域が存在してきました。それを一枚の絵の中に集約したということですね。「埋葬する」という言葉はなかなか刺激的ですが(笑)

 

久松:だから(埋葬なんて本当は不可能である)という括弧が作品のコンセプトに含まれます。「日本の美術」は私が集約できるようなものでは、もちろんありません。集約しているように見えるのかもしれませんが、私が作品で描いている「埋葬」の対象としての「日本の美術」は非常に偏っています。

 

 

―この作品は卒展のあとにカオス*ラウンジの展覧会「LITTLE AKIHABARA MARKET ―― 日本的イコノロジーの復興」(14年5月10日~25日、A/D GALLERY)にも展示されていましたよね?

 

久松:この作品を描いた時に、黒瀬陽平さんに肖像を描いたことに承諾を得るためのお手紙を書いたんです。作品発表前に《日本の美術を埋葬する》では存命の方と近々にお亡くなりになった方で、手紙の送り先がわかった方に限り、15名ほどに肖像を描いたことの承諾をお願いするお手紙を書いています。それまで面識はなかったのですが(カオス*ラウンジの活動に)興味はあって。そうしたら「肖像の使用については問題なく、むしろ芸工大の卒展に見に行きます」とお返事をいただきまして、山形にいらっしゃったときに(展示に)お誘いいただいたんです。「この絵を出してください」と。

 

 

次のページへ

岡本敏子賞を受賞した《レペゼン 日本の美術》

 

 

【関連記事】

第18回岡本太郎現代芸術賞決まる TARO賞にYotta《金時》

第7回絹谷幸二賞に谷原菜摘子氏 奨励賞には久松知子氏

第7回絹谷幸二賞贈呈式開かれる 谷原菜摘子、久松知子の2氏が受賞

 


関連記事

その他の記事