[通信アジア] 2014年を回顧する:南條史生

2014年12月27日 09:00 カテゴリ:コラム

 

2014年を回顧する

―南條史生(森美術館館長)

 

今年を振り返って見ると個人としては、香港に2回、台湾に3回も行くこととなった。他にシンガポール、インドネシア、オーストラリア、フランス、アメリカ、韓国など、それぞれ2回程度ほど出張している。やはりアジアへの訪問が多い。それだけ、アジアで事が動いているということなのだろう。

 

さて、前回台東のことを書いたが、その後台南にも招ばれて行ってきた。それは、台南が初めて市立美術館を建てることになったからだ。審査員は全部で15人ほどいて、大半が台湾の専門家だが、私やヨーロッパの美術館関係者も含まれていた。一方、応募者から6人にしぼられた建築家のショートリストには、4人も日本の建築家が入っていた。最終的に、その中から坂茂のポンピドーメッツと似たような考え方の提案が選ばれた。その他の応募案にも本当にいいものがあり、日本の建築の力強さをみせるコンペだったと言えるだろう。このコンペは「turn key project」と呼ばれていて、建築業者と建築家がチームとして一緒に応募する方式を取っている。日本ではあまり見ない方式だが、その結果良いものができるのだろうか、これからを見守りたい。

 

台南市立美術館建築コンペの様子

 

さて、11月には、カタールに行ってきた。それは久しぶりにCIMAMの国際会議に顔を出すためである。CIMAM(Comitte International de Musee d’art Modern)はICOM(国際美術館会議)の一部会で近現代美術館のキュレーター・館長が集まった部会である。

 

1994年に原美術館の原俊夫氏が音頭をとり、私が事務局長になって年次総会を招聘し、日本に100人近いメンバーが来訪したことがある。現在はこの会議のボードメンバーに、森美術館のチーフキュレーターの片岡真美が参加していて、来年(2015年)2回目の日本招致が実現することになった。3−4日の滞在プログラムなので、多くのことはできないが、ポストコングレスツアーも組む予定なので、是非、日本の多くの美術館のみなさんにもご協力をお願いしたい。

 

カタールの会議では、「private and public」をテーマにして、多数のスピーカーが、市場、組織、キュレーション、制度など、異なった視点から、論点を提示し、活発なForumとなった。

 

また、マトハフ・アラブ近代 美術館や、イスラム博物館など最新の美術館も見学。最も印象的だったのは、砂漠の真ん中に設置されたリチャード・セラの彫刻だろう。1キロの距離に4本の鉄板が立っている。高さはおよそ18メートル、重さ30トンという。これは、圧倒的な存在であった。

 

カタールの砂漠に出現したセラの巨大彫刻

カタールの砂漠に出現したセラの巨大彫刻

 

CIMAMにおける檀上のマイヤーサ王妃

CIMAMにおける檀上のマイヤーサ王妃

こうしたアート作品収集の立役者であるマイヤーサ王妃にも面会し、来年森美術館で開催する展覧会に所蔵作品を借用することが可能になったことに、礼を述べることができた。私個人としては、今年は、文化庁が組織した、「現代羮術の海外発信に関する検討会」という諮問委員会で、座長を務めたことが印象深い。その議論の総まとめは、もう文化庁のサイトにアップされているので見ていただきたい。

 

そして、そのような日本のアートの海外発信は、CIMAMを日本に招致したりすることも深い関係があることを指摘したい。日本のアートの発信は、単に海外で展覧会を開いたり、アートフェアに作品を展示することだけでなく、このように、まず多数の専門家に状況を見てもらい、日本のアートのみならず背景となる社会、文化、経済についても紹介し、理解を促進することが肝要なのではなかろうか。そのような広範囲で深い理解が、日本のアートについてのリテラシーを高め、日本のアートの安定した評価にもつながるだろう。(経産省のクールジャパンの関係者にも言いたいことである)

 

来年は今年以上に日本のアートに焦点があたるかもしれない。その時に、世界の期待に応じられるだけの日本美術業界であって欲しいと思う。

 
 


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