[フェイス21世紀] : 須永有

2014年12月25日 11:44 カテゴリ:コラム

 

思索のタブロー 選択のかたち

 

T-Art Gallery「テラダ・アート・アウォード入選者展」にて(2014年12月15日撮影)

 

テラダ・アート・アウォードの最優秀賞に選ばれた「向こう側から」は、「自分にとっての絵というもの」を描いた作品だ。キャンバスの裏、切り裂かれたその隙間から向こう側を見つめる一人の女性。視線の先にいるのは、鑑賞者か、はたまた画家自身か。見る側と見られる側、主体と客体を転倒させたテーマの面白さもさることながら、油絵具の物質性、線と面の構成を強く意識した画面は、フラットで端整な作品が多勢を占める入選作の中で、ひと際存在感を放つ。

 

「向こう側から」 2014年 162.0×162.0cm キャンバス、油彩

東京藝術大学に入学した2010年の秋、アーティスト・村上隆が企画した「現役美大生の現代美術展‐PRODUCED BY X氏」に出品した。「美術教育への問題提起という村上さんの意図を、自分の中で消化しきれず」後悔が残った初めての展覧会。ただ、得たものは大きかった。「単なる感覚的な、自分が心地よいだけの絵では通用しないことが、はっきり分かった。あの展示以来、現代美術という枠組みの中で生きていくことの意味を真剣に考えるようになりました」。

 

現在は、同大学院の修士課程に在籍。同世代のミニマルな表現や技巧的な作品に憧れもあるが、「自分に合ったやり方で、いかに上手く見せていくのかを探りたい」と強みである油彩の表現にこだわり、制作を続ける。

 

大学や大学院を出た後のキャリア形成は、多くの作家の課題だ。須永も同様の不安を抱える。だからこそ、今回の受賞は大きい。既に知名度のある若手も多い中、審査員はその「可能性」を高く評価した。彼らの期待とプレッシャーにどう応えていくのか、真価が問われるのはこれからだ。

 

2010年の展示の際、アーティストという職業について「物事の新しい見え方を見つけたり作ったり実践する人」だと須永は答えた。その言葉を自ら体現し、私たちに新たな世界を見せてくれることを強く願いたい。

 

須永 有 (Aru Sunaga)

1989年群馬県生まれ。2010年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻入学。同年「現役美大生の現代美術展‐PRODUCED BY X氏」(東京・カイカイキキギャラリー)、「GEISAI TAIWAN#2」(台湾・台北)に出品。以降は、2012年「TRANS ARTS TOKYO」(東京・旧東京電機大学)、2013年個展「PASSAGE」(東京・Bambinart Gallery)、2014年「O JUN『太郎かアリス vol.5』」(東京・ターナーギャラリー)。2014年に公益財団法人現代芸術振興財団主催の「CAF ART AWARD 2014」で山口裕美賞を受賞。現在、東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程(第7研究室)在籍。

 

 

(取材・撮影/和田圭介)

 

【関連ページ】 テラダ・アート・アウォード 最優秀賞に須永有「向こう側から」

 


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